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84 意外な来客

 店を開けてからしばらくは客も来ず、のんびりとグラスを磨いたり元揮君とお喋りしたりといつもの店内……  少しずつ客が入ってからもいつもの通り忙しくなるわけでもなく、常連客と会話を楽しみながらゆったりと過ごした。 「悠さん、俺ちょっと今日は早く上がらせてもらっていいですか?」  閉店も近くなった頃、元揮君が申し訳なさそうにそう言った。 「ん? いいよ……何々? デート?」  俺より後に帰る事も多い元揮君がそんな事を言ってくるのが珍しく冗談交じりにそう聞くと「え……と、あの……はい 」と、しどろもどろになりながら顔を赤らめた。 「え? 本当に? ちょっといつの間に? 早く帰ってもいいけど、今度お店に連れておいでね。ご馳走するからさ。はい、お疲れさん!」  照れくさそうな元揮君を見て、なんだか自分の事のように嬉しくなってしまった。俺は追い出すように元揮君を帰らせて、一人のんびりと片付けを始めた。最後の客も出て行ってから時間も経ち、これ以上客も入らないだろう。敦はまだだけど、そろそろ来る頃かな? などと考えていたらドアのベルがカランと鳴った。  顔を上げなくてもわかる……  やっと来た、と思い拭いていたグラスを置くと、思っていたのと違う声が聞こえて驚いてしまった。 「……悠さん」  驚き顔を上げるとそこにいたのは敦ではなく純平君だった。 「もうお店終わりですか? すみません……遅くに来ちゃって」  申し訳なさそうな顔をした純平君が、まだ何かを言いたげにカウンターの前に佇む。 「久しぶりだね。今日はどうしたの? 何か飲む? 作るよ?」  少し動揺してしまったのを隠しつつ、俺はグラスを出した。 「あ……大丈夫です。あの、陽介からカーディガン受け取って……俺、悠さんに会いたくなって……」 「そっか、それって友人としてだよね? うん、俺も会いたかったよ」 「……はい」  そろそろ敦も来るかもしれない。  ここに純平君がいたら、敦はどう思うだろうか……  昨晩敦を傷つけてしまったかもしれないのに、閉店間際で純平君と二人きりの状況もきっとよく思わないだろう。ちゃんと敦と話をして謝りたいのに。  俺は純平君の事よりも敦のことが気になってしまっていた。

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