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85 お祝い

 何か言いたげな顔でカウンターの前に突っ立ったままの純平君に、俺は烏龍茶を一杯出してやった。 「あ……すみません。いただきます」  すぐに帰るつもりなのか、純平君は椅子に座ろうとはせずにグラスにひと口だけ口を付ける。 「聞いたよ、里佳さんとまた付き合う事になったんだって? おめでとう……」  なかなか純平君が話し出さないから、俺の方からそう切り出した。きっとこのことを伝えようとして来てくれたんだと思ったから。  純平君は少し驚いたような顔をしたけど、すぐにヘラッと笑って優しい表情になった。 「俺……ここに来ていいのか凄く迷ったんです。ごめんって謝るのもなんか変だし。でも……でも、悠さん勘違いしたままだったら絶対嫌だから。これだけはちゃんと言っておきたくて…… 」  そう言って純平君が俺の方をジッと見つめた。 「あの時も言ったけど、俺は悠さんのこと本気で好きだったよ。この俺の気持ちまでなかった事にしないで……気の迷いでもなかったし、俺が悠さんの事が好きだったのは事実だから。それだけは……否定しないで……ください」 「………… 」  わかってる。  俺が気持ちを吹っ切るためにそう思いたかっただけだから。 「うん。ありがとう、純平君」  俺が純平君にお礼を言ったそのタイミングで敦が店に入ってきた。 「あ……敦」  店に入るなり不快な顔を見せた敦は、ツカツカと純平君に向かって歩いてきた。そして純平君の隣に黙って立つと、俺の方を見つめてニヤっと笑った。 「悠さん、俺やったよ! 今日すぐに返事貰えて……打ち合わせしてたら遅くなった」  興奮気味に俺にそう報告してくる敦を見て、俺も心の底から嬉しくなって思わず敦の手を取りぶんぶんと振る。 「やったな! おめでとう。よかった……本当によかったな!」  俺のせいで動揺させてしまったんじゃないかと悪い方向にばかり頭が働いてしまってたから、本当に敦のこの報告は嬉しかった。 「座ってよ。お祝い! 俺が奢るから。純平君もほら」  カウンターの前で立ちっぱなしの二人にそう声をかけ、俺はグラスを自分の分も含め並べた。 「お祝いなら悠さんと二人でがいいのに……」  チラッと純平君の方を睨み敦が呟く。 「………… 」 「ほらほら、そんな風に言わない! 純平君の元カノとの復縁祝いも兼ねて、ね?」  俺がそう言うと敦はあんぐりと口を開き「そんなのと一緒にすんな!」と不機嫌になってしまった。 「いいのいいの、俺は嬉しいよ。ね、純平君も一杯でいいから飲んでってよ」  俺はシャンパンを注ぎ、残っていたチーズの盛り合わせを出した。  飲み始めるとカウンターの席ひとつ分あけて二人が座ってるのに気が付き、俺はその間に座った。 「たまには俺もこっちで飲もう」  何だか気分良く飲んでしまった。  きっと、この二人の前でなら気を張らなくてもいいってもうわかったからだ。

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