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87 思いが募る

「ちょ? ちょっと……俺の存在忘れてない?」  頭上から純平君の声が落ちてきて俺は我に返った。 「あ……ごめん。忘れてたわ」  赤くなり慌ててる純平君を尻目に、俺は眠ってる悠さんにもう一度キスをした。  額にかかる髪を軽く退かし額にもキスを落とす。  そう、今度はわざと……  悠さんは俺が幸せにするから。  悠さんは誰にも渡さねえよ、そんなガキっぽい対抗心も少し混ざる。 「俺、ここに残るからさ。いいよもう……今日は俺のお祝いもしてくれてありがとな。純平君も彼女とお幸せに」  純平君は何か言いたげな顔をしたけどすぐにフッと笑顔を見せ「ありがとう」とお礼を言って店から出て行った。 「彼女とお幸せに」なんて言ったのは嫌味で言ったわけじゃない。きっと純平君も悠さんのこと、好きだったはずだ。でもノンケなのに男に興味が湧き、好きになってしまう。  これはよくあること。  束の間恋人気分を楽しんで、そして気がつく。男相手には将来が見えないという事に。「やっぱり無理」大抵の奴はそう言って離れていくんだ。何度こんな風にして傷つけられてきたか……  俺は悠さんを傷つけたくなかったし、純平君だっていずれ傷付く。  俺は元カノとよりを戻して正解だと思うよ。  彼女と進んでいくって決めた純平君は正しいと思ったから。  でも純平君と出会ったから、悠さんはずっと引きずっていた片思いを断ち切ることができたんだと思う。  ……ありがとう。  俺は心の中で純平君にお礼を言った。 「なに?……悠さん起きてたの?」  不意にキュッと手を握られ、驚いて息が止まった。  赤い顔をして横たわったまま俺を見つめる悠さんは小さく頷く。 「いつから起きてた?」 「お前がキスなんかするから……」  恥ずかしそうに俺から目を逸らした悠さんの頬に手を添え、こちらを向かせる。 「ごめんね。キスなんかして」  純平君の前で、嫌だったかもしれない。  寝てるのをいい事に俺は勝手なことをしてしまった。 「……別にいいし。俺こそごめん。調子のって飲みすぎた」  目元に手を置き悠さんは顔を隠した。 「………… 」  顔を隠すのは恥ずかしいから?  それともまだ俺に対して恐怖心が残ってる?  俺には悠さんが何を思っているのかは、わからなかった。  でも俺、もう抑えきれない。ごめんね、悠さん。 「悠さん……俺のこと見て」  俺は目元を隠している悠さんの手を取り、視線を合わせる。悠さんは不安そうな瞳で俺を見つめた。  少し泣いてる?  ……そんな目で見ないでよ。  俺は泣かせたいわけじゃないんだ。  もっと幸せそうな顔が見たい。  笑顔が見たい。  ずっと一人で気持ちを押し殺してきて、必死に自分を守ってきた悠さん。  大丈夫。俺が幸せにしてやるから……  安心して好きになっていいよ。  前の男の事がまだ頭にあったっていい。  無理に忘れる事はないんだ。  俺は絶対に裏切らないから。  安心して俺のことを好きになってくれていいから…… 「悠さん……俺と付き合ってください」

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