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88 好きの気持ち

 俺は純平君と敦の間に座り、気分良く飲んでしまって挙げ句の果てに眠くなってしまった。酔いつぶれてしまったのか、気がついた時にはソファで横になっていた。  フワッと何かが唇に優しく触れる。  この感じ……  すぐに敦だとわかった。  ぼんやりと目を開けると、目の前に見えるのは敦の姿と純平君。  あれ?  今、俺キスされた?  敦と純平君は俺の前で何かを話していた。  お酒がまわって頭はぼんやりしていたけど、敦が純平君に「彼女とお幸せに……」と言ったのはわかった。  此の期に及んでまだ少し胸が痛む。  視界の端に優しく微笑む純平君が見えた。  純平君が店から出ていき、敦は入り口のドアを見つめてる。  ……何を考えてる?  純平君の前で、何で俺にキスをしたの?  ちゃんと言葉で聞いてみたい。  敦が見せた俺への独占欲のようなものに、不思議と目頭が熱くなった。  敦が突っ立ったまま、あまりにもその場から動かないから俺はそっと目の前の敦の手を掴む。驚いた敦はやっとこちらを振り向いた。 「いつから起きてた?」  驚きと困惑の表情で俺のことを見つめる敦にドキドキした。 「お前がキスなんかするから……」  だって、純平君の前で俺にキス……したよな?  でも違かったらどうしよう。  俺の勝手な妄想だったのかも。  言ってから俺は恥ずかしくなってしまった。  思わず顔を背けると、敦の手が俺の頬を優しく包む。そしてそのまま俺の顔を敦に向けた。 「ごめんね。キスなんかして」  自信無さげに俺に謝る。  ああ、やっぱりキスされたんだ。 「……別にいいし。俺こそごめん。調子のって飲みすぎた」  至近距離で敦に見つめられ、俺は恥ずかしさと何とも言えない昂揚感に襲われた。そして何故だか涙が出そうになり、慌てて目元を手で押さえた。  どうしよう……  敦が俺を求めてくれるのが嬉しく思う。  でも怖い。  寂しくて誰かに縋りたいと思う自分も、もう誰のことも好きになれないかもしれないと思う自分も、誰かを愛し愛されたいと思う気持ちも全部心の中にしまい込んで来た。でも既に少しずつ解放されてしまってるのがわかる。  昨晩の事が頭を過ぎった。  本当に目の前にある敦の手を掴んでもいいのだろうか……  好きだと自覚して、また不安に襲われるんじゃないか。  ふとした事で、陸也の事が頭を過ぎり敦を傷つけてしまうんじゃないか。  人を好きになるって、こんなにも怖いことなのか?  こんなにも不安なことなのか?  ……俺は自信がない。 「悠さん……俺のこと見て」  俺のこの気持ちを察してなのか、敦が優しく俺の手を取る。泣きそうな顔は見られたくなかった。  何とも言えない表情で俺を見つめる敦が口にした言葉に、俺は一瞬呼吸が止まった。 「悠さん……俺と付き合ってください」

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