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89 お祝いの続き

「悠さんの部屋……行きたい。お祝いの続き、してよ」  敦は俺の手を握ったままそう続ける。今「付き合ってくれ」と言ったよな? その返事……俺は何て返事をしたらいいのだろう。  敦の俺への好意はわかっていた。  でも付き合ってくれとはっきり言われたのは初めてだった。告白をされるって、こんなにドキドキするものなのだと改めて思った。  敦と恋人同士になる……  いや、こんな俺じゃダメだろう。  ふとした拍子にまだ陸也の事が頭を過る。純平君の事だって…… それに何より自分が傷付くのが怖いと思ってしまう。 「悠さん?」 「あ……うん、いいよ」  上の空だった俺に、敦が不思議そうに声をかける。思わず「いいよ」と答えると、敦は嬉しそうに俺の手を引いた。 「立てる? 歩ける?……気分はどう?」  酔っ払い扱い。でも心配されるほど潰れてるわけじゃない。 「別に大丈夫だし」  心配する敦をよそに俺は自分でソファから立ち上がり、二人で部屋へ帰った。  部屋に入るとすぐに敦は俺の背後からそっと抱きつく。  ドキドキする…… 「悠さんさ、俺のこと支えてよ。俺、悠さんが俺のこと見ててくれたら頑張れるんだよ。ね……俺の事ずっと見てて」  敦は耳元で囁くようにそう言った。 「俺なんかじゃダメだよ」  敦のくれる言葉はどれも嬉しくて、それでもやっぱり素直にうんとは言えなくて躊躇ってしまう。 「俺が悠さんがいいって言ってんの! 自分のこと否定すんなよ……そういうの悪い癖だ」  少し怒った敦にギュッと強く抱きしめられた。  ……心地いい。 「とりあえずさ、ほら……お祝いの続きするんだろ? 何か飲むか?」  俺は敦の腕からスルッと逃れ、キッチンへ歩いた。  なんだかそのまま流されてしまいそうだったから。  誰かとちゃんと恋人同士になる……  俺にはまだ自信がなかった。  せっかく掴んだ幸せを自ら壊してしまうんじゃないかって怖いんだ。  敦は黙ってソファに座っている。  特に何も言わないから冷凍庫から氷を取り出しアイスペールに入れ、ウイスキーを棚から取り出した。終始視線を感じ落ち着かなかった。 「ウイスキー、飲むよな?」  目が合うとにっこりと微笑んでくれる。  なんだか見つめられてるのも照れくさくて、酒の準備をして足早に敦のもとへと歩いた。  向かいに座ると敦は自分の横をトントンと叩き、ここに座れと俺に言う。何を話していいのか気が焦り、俺はいそいそとグラスにウイスキーを注いだ。

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