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91 甘やかすから……
「俺でいい……のか?」
俺の顔を覗き込み泣き笑いしている敦にそう聞いた。
「いいに決まってる! 悠さん今まで何聞いてたの?」
ありがとうと敦は笑いながら、ぎゅうぎゅうと俺を抱きしめた。
敦が泣いている。
嬉しさと安堵感みたいな感情がふわふわと湧いてくる。
俺も一緒に泣いてしまった。でもこれは今まで流した涙とは全然違う、幸福感に満たされた涙だった。
「少しずつでもいいから……ゆっくりでもいいから、どんどん俺の事好きになっても大丈夫だからさ。絶対に不安になんかさせないから」
敦が優しく俺の頬に手をやり、涙を拭ってくれる。
「悠さん、キスしてもいい?」
「いちいち聞かなくてもいいよ……」
俺の方から敦の首に抱きつきキスをする。
ゆっくりと敦の口内へ舌を挿し入れてみると、敦もそれに応えてくれた。
しばらくの間、確かめ合うように唇を重ねる。
敦の手が、もどかしそうに俺の背中を這っていた。
「昨日の続き……するか?」
「……ううん、いいよ。今日はしない」
勇気を出して言ったのに拒否されてしまっては決まりが悪い。でもそれは敦の優しさだとわかったから俺は嬉しかった。
抱かれたいと思うよ──
でもまた過去の事が思い出されて泣いてしまったら、きっとまた敦を傷つける。
俺に差し出された唯一の手が、結局また離れていって一人になるのが怖い。それでも目の前にいるこの男が好きなんだと素直になれた。
「昨日はごめんな。泣いたりして……」
「……しょうがないよ。気にしてないから。でも悠さんに触れていたいから、今日は一緒に寝てくれる?」
そう言った敦に肩を抱かれる。甘い雰囲気に気持ちが蕩けた。
順にシャワーを浴び、二人でベッドに入る。
今日はしないと言った通り、敦は俺の体に腕を回しただけで何もしてこなかった。
照れくさくて背中を向けてベッドに入ったもんだから、敦に背中から抱かれる形になった。
「………… 」
よく陸也もこうやって抱きしめて寝てくれたっけ。どうしてもいちいち陸也のことが思い出されてしまう。
俺は体の向きを変え、敦の胸に顔を埋めた。
「敦はさ、いつもこうなの?」
顔を埋めたまま、俺は敦に聞いたみた。
「ん? こうって? なにが?」
顔を上げ表情を見ると、不思議そうな顔をした敦は俺の髪を撫でるように指で梳いた。
「いや、寝る時は……その、こうやっていつも相手を抱きしめて眠るのかなって思って」
俺は陸也の時もこうやって抱きしめられて寝ることが多かった。
「ん、いつもじゃない。悠さんの場合はそうだな。抱きしめたくなる……大丈夫だよ、俺はここにいるよって安心させたいから、自然とこうなるのかな?」
髪を梳く敦の指が俺の額から髪を退かし、露わになった額にチュッと軽くキスをした。
「愛おしい、大事にしてやりたい。笑顔にしてやりたい……安心してほしい。俺は何処にも行かない。本当だよ。 俺ね、きっと悠さんに対して凄え過保護になると思う。めちゃくちゃ甘やかしてやるから覚悟してね」
物凄く擽ったい事をサラッと言い、照れ臭そうに笑う敦につられて俺も声を上げて笑った。
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