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92 腕の中の幸せ

 俺きっと死ぬ……  幸せ過ぎてヤバい。  仕事も順調、意中の人とは恋人同士になれた。  そして今、その愛しい人は俺の胸に抱かれてギューってしてくれてる。思いが伝わった途端、悠さんの事が益々愛おしく感じる。  正直言って昨晩の続きをしたい気もあったけど、悠さんの気持ちを考えるとゆっくりでもいい……と思って我慢した。  ふとした拍子に過去の想い人を思い出して涙なんか流さないように……  少しずつ俺で心が満たされていくように、じっくり二人の関係を育めばいい。  ベッドの中で俺の胸に顔を埋めている悠さん。  初めは背中を向けてベッドに入ってきたから背後から抱きしめた。それなのに悠さんはすぐに体の向きを変え、俺の胸の中に入ってくる。何もしないと言った以上、手を出すこともできずに俺はムラムラする気持ちを堪えながら悠さんの髪を弄った。  平常心。  そう思えば思うほど、昨晩の悠さんの姿が頭に浮かぶ。  ゆっくりと確かめ合うようにキスをして、服を脱がし直接触れたやわらかな肌の感触。ほんの少ししか触れていないのに、悠さんの口から漏れる熱い吐息が鮮明に頭を過ぎった。 「敦はさ、いつもこうなの?」  悠さんに唐突に聞かれ、意味がわからず「何が?」と聞き返してしまった。一瞬心の中を見透かされてしまったのかと思いドキりとした。 「いや、寝る時は……その、こうやっていつも相手を抱きしめて眠るのかなって思って」  いつも抱きしめて、って。悠さんから俺はどんな風に見えてるのだろう。  正直言って、俺は今までちゃんと付き合った奴なんかいない。恋人同士だと思っていたのは自分だけだったり、騙されて体の関係だけ迫られたり、恥ずかしながらまともな恋愛なんかしたことがなかった。  そもそも本気で好きだった奴がいたのかすら疑問だ。でもそんなことを悠さんが知る必要もないし、初めての本気の恋かもしれないなんてそんなサムくて重いこと、口が裂けても言いたくなかった。  俺は悠さんの髪を弄りながら、軽く答える。  悠さんだから抱きしめたい……  悠さんだから優しく甘やかしたい。  それは本心。悠さんだから自然とそうしたくなるんだ。  ちょっと長めの前髪をサラリと退かし、俺は悠さんの額にキスをした。 「愛おしい、大事にしてやりたい。笑顔にしてやりたい……安心してほしい。俺は何処にも行かない。本当だよ。俺ね、きっと悠さんに対して凄え過保護になると思う。めちゃくちゃ甘やかしてやるから覚悟してね」  悠さんを見つめそう言うと、ちょっとだけぽかんとした顔で俺を見た。途端に自分の言った言葉に恥ずかしくなった。  誤魔化すように俺が笑うと、そんな俺につられたのか悠さんまで笑い出す。恥ずかしかったけどそんなひと時がとても幸せに感じて、俺はまた涙がこぼれそうになるのをグッと堪えた。

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