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93 恋人
俺は敦と正式に付き合うことになった──
正式にって何だ?
敦と俺は恋人同士になった。
俺の彼氏……
今そこのテレビに映ってるチャラいイケメンモデルが俺の彼氏……
全く実感が湧かない。 俺はぼんやりと店の事務所でテレビを眺めていた。
敦はモデルと言ってもちょいちょいテレビにも出ていて、俺からしてみたらどちらかと言えばタレントのイメージの方が強い。それなりに人気もあるし、あまりよく知らないけどモデルと熱愛報道もされたこともある。
そんな敦が俺の恋人……
何で俺なのだろう? こんな俺になんで好きだと言ってくれたのだろう……
「あれ? 悠さん今日も早いですね」
突然背後から声をかけられ、ビックリして思わずテレビを消してしまった。
「あは……なに? 悠さんどうしたんですか? 驚きすぎ」
クスクス笑う元揮君に準備を任せ、俺は煙草を吸いに外に出る。
今夜は来るかな?
ここのところ週に二、三回は店に顔を出していたけど、どうなのだろう。特に約束はしていない。付き合うことになったところで以前となにも変わらなかった。
なんだか俺は落ち着かずにソワソワとしてしまう。
今まで特定の誰かと付き合ったことなんてないから、こんな時はどうしたらいいのか本当にわからなかった。
結局開店してから閉店するまで、俺はドアが開くたびにドキッとし、そして敦は来店することなく一日が終わった。
「お疲れ様です……大丈夫ですか?」
閉店まで残っていた元揮君が心配そうに俺を見る。
「何が?」
なんで大丈夫かと聞かれるのか本当にわからずに元揮君に聞いてみると、大袈裟なくらい溜息をつかれた。
「何が? じゃないですよ……今日は誰かを待ってたんですか? ずっとソワソワソワソワ、オーダーだって間違えてたの気づいてます? 今日の悠さん太亮ばりにボンヤリでしたよ」
「………… 」
元揮君に指摘されるまで気が付かなかった。俺はそんなに落ち着きがなかったのか? 太亮君ばりにって……酷い言われようだな。
「ごめんな。なんでもないんだ」
一応敦は芸能人の括りで、街中を歩けば誰かしら声をかけられるような人物だ。
いつも俺の事を心配してくれる元揮君には敦の事を話しておこうかと頭を過ぎったけど、その事があるからやっぱり俺は言えなかった。
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