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94 おじさん二人

 結局家に帰っても何の連絡もなく、自分から連絡するのも何だか気がひけるのでそのまま寝た。  俺のこと、めちゃくちゃ甘えさせてやるなんて言ってなかったか?  付き合うってこんなものなのかな……  ちょっとだけ、敦が来てくれるんじゃないかと期待していた。今までは好きな奴からの連絡をただただ待って、気まぐれに会いに来てくれるのを願っていただけ。  でも敦は俺の恋人なんだ。  だから何も連絡がなく一日が過ぎてしまって、俺は正直言って寂しくてしょうがなかった。  翌日も何の音沙汰もない。  今までと何も変わらない一日が昨日と同じに過ぎていった── 「あ……いらっしゃい。久しぶりだな。今日は一人?」  いつもの店内、客足も途絶えそろそろ閉める準備でもしようかと思っていたら入り口のドアのベルが鳴る。  顔を上げ見てみると、陸也が一人で入ってきた。 「一人……なんだいつも暇そうだな」  陸也はカウンターの真ん中の席に落ち着くと周りをチラッと見回しそう言った。 「志音はまた撮影で一泊留守なんだよね。寂しいから来ちゃった」  わざとらしく顎に手をやり上目遣いで甘えた声を出す。 「ふふ……上機嫌だな。もう何処かで呑んできたのか?」 「うん、まあね。それより悠、どうした? なんか元気なくないか?」  急に真面目な顔をして俺のことを覗き込む。「疲れてるのか?」と心配する陸也に俺はなんと言ったらいいのか迷ってしまった。 「………… 」  今日は元揮君はもう上がったし、店には俺しかいないから……  陸也にはちゃんと話しておいた方がいいのかも、と考える。 「どうした? 困り事?」  今の俺の頭にあるのは、困り事というより悩み事だ。今まで経験したことのない事ばかりで、こんな事相談できるのも他にいなかった。 「俺さ、実は好きな奴できたんだ。で、付き合う事になった」 「えっ?」  陸也が驚きなのか嬉しさからなのか、微妙な顔をして俺を見る。 「でも……付き合うって、実はよくわからなくて」 「え? わからないって、今までどんな恋愛してきたんだよ」  陸也はそう言って笑った。  どんな恋愛も何も、俺はお前しか知らないんだよ。 「……連絡がないとさ、寂しいんだな」  何をどう話していいのか結局わからず、とりあえず今の自分の心境を吐露してしまった。 「なんだよ、初々しいな。そんな寂しいなら悠の方から連絡すりゃいいじゃんか」 「いや、俺の方が歳上だし……向こうから連絡するのが筋だろ?」  そうなんだ……  年齢の事もちょっと引っかかっていた。実際俺は敦の事をよく知らない。そう思って少しだけ調べた。ネットに載っていた情報が正しければ、敦は俺より三つも歳下だった。見た目が若いから、もっと若いかと思ってたけど、実際もっと若かったら俺は落ち込む。 「歳下とか歳上とか関係ないだろ? それ言ったら俺はどうなる。悠さん? あなたいくつ? もういい歳なんだ。せっかく好きになったんだから素直になれよ。電話一回するくらいどうって事ねえだろ?」  陸也が揶揄うように笑った。 「それに悠、俺と再会してからは色恋なさそうだったし……恋人とかいなかったろ?」 「あ……うん、まあね。陸也と会ってからは特定の奴はいなかったよ」  そもそもずっとそんなのはいなかったさ。  でもそんな事言ったら重いだろ?  実は中学の頃から陸也の事が好きだったからずっと俺は一人だよ……なんて。  陸也はわかっているのかな?  でも俺はこんな事こいつに言うつもりはさらさらない。 「俺は志音には全部ぶつけてるぞ。今更駆け引きとかやってらんねえしな。変な誤解されても嫌だから、おじさんは捨てられないように必死なんだよ」  陸也が自虐的に自分を揶揄うように言う。 「はは……」  そういえば陸也の相手、志音は高校生だ。敦が三つ歳下とか、そんなの可愛いものだ。 「陸也、大変だな。おじさんは」 「ちょっと? 悠に言われたくねえよ」  客のいなくなった小さなバーで、おじさん二人はゲラゲラと笑った。  いやいや、俺たちまだ若いからね──

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