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96 嘘
敦からは相変わらず連絡はない──
今日も店に陸也がやってきた。
今日は志音も一緒だった。陸也は明らかに機嫌が悪そうだけど、志音は陸也と違って穏やかな顔をしている。
「陸也さんから聞いたよ。まさか敦と付き合い始めたなんてびっくりしたよ」
「ああ…… 」
俺は陸也の視線を無視して志音に笑顔を作ってみせる。
付き合い始めたものの普段とどう違うのかよくわからずに、挙句にその恋人と連絡が取れずモヤモヤしていた。
「ねえ、あの報道、やっぱり気にしてるよね? 敦から何か言われた?」
「……いや」
志音は俺の返事を聞くなり大袈裟にため息を吐いた。
「あれ嘘だからね。真雪さんも凄い怒ってる。敦もきっと悠さんにちゃんと説明したいと思うよ。ちょっと撮影入って忙しくなっちゃってるから難しいと思うけど……俺でさえここ一週間、姿見てないからね。怒らないで待っててやってよ」
嘘……か。
そっか。
それならいいや。
でもちゃんと敦の口から聞きたかったな。
「俺の場合は、自分の不注意から招いた事だったけど……敦の場合はそうじゃないからね、責めないでやってね」
申し訳なさそうな顔で俺と陸也の顔を交互に見る志音。志音も以前同じような事があったのを思い出す。
「うん、ありがとな。そっか……忙しいのか。なら敦から連絡くるの大人しく待つわ」
自分から連絡するのもきっと迷惑だと思うから、待つことにした。志音がこうやって教えてくれたから大丈夫。
「でもな、火のないところに煙は立たないって言うしよ、あいつはチャラチャラしてるから本当に大丈夫なのか?」
「もう! いつまでそんな事言ってんだよ! 陸也さんが思うほど酷い奴じゃないから。悠さん陸也さんの言うことなんか気にしないでいいからね」
「………… 」
しばらく俺の事は御構い無しで陸也と志音が言い合っていた。
そのうちに客が増えてきてそちらの相手をしているうちに、二人はいつの間にか帰ってしまっていた。
「志音君達がよろしくって言ってましたよ。なんか今日は珍しく混みましたね」
途中からバイトに入った元揮君が後片付けをしながらそう言った。
いつもいつも暇だとはいえ、こうやって常連のお客様が多い事はありがたいことだな。
「ありがとう。元揮君もそれ終わったらもう上がっていいよ。お疲れ様……」
もうこれ以降は客も来ないと踏んで元揮君を先に帰す。
俺自身も片付けを終わらせて、さっさと帰ることにしよう。
今日も敦の来店を少し期待したけどやっぱり現れる事はなく、俺は重い足取りでマンションに帰った。
エレベーターを降り、一番奥が俺の部屋……
何となく視線を上げたら、ドアの前に人影があり一瞬ドキッとした。
俺の部屋のドアの前に寄りかかるようにしてしゃがみこんでいたのは敦だった。
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