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星
ジリリリン
ジリリリン
今は懐かしいと云う人も少なくなった黒電話が鳴る。特に焦らず奥から出てきた男が流れるように受話器をとった。
「はい、星虹(せいこう)診療所。古坐魅(こざみ)です」
穏やかな声は焦る人の心をすこし落ち着かせる。電話の相手も同様だ。落ち着いている様にみせても焦りがどこかにあるのだと祖父から教わって以来、穏やかな声と口調を心掛けている。
「……はい、かしこまりました。では往診に向かいます」
電話のとなりに常備されているメモに住所や名前を記し、詳細を確認した。
電話を切り、メモを再度確認する。
結い忘れていた髪をかきあげて手近にあった紐でポニーテールにする。
「子供の様子がおかしい、ねぇ……」
仕事としては依頼いただけるのはありがたい。ただ、子供の様子を「おかしい」と一言で終わらせるのは頂けないと常々思うがそんな話はしていられない。
カルテにまとめ直しながらとある人物に連絡をいれる。
眉間にシワを寄せているだろう無愛想な男は案外子供の相手が上手い。ついでにマジックやら大道芸も上手い。
「今日は機嫌がいいといいなぁ」
なんだかんだ言ってもついて来てくれる甘い男の顔を思い浮かべてクスクスと笑った。
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