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紋
デスクワークに飽きたころ。
胡散臭い医者から連絡が入っている事に気がついた。
携帯端末の画面に記された[古坐魅 丞(こざみ たすく)]の文字に眉間の力がはいる。
「俺は、医者じゃないんだが……」
何度もいいなれた言葉を呪詛のように吐きながら画面をタップする。
[久しぶりに依頼をしたい。明後日に医院で待っています。]
簡潔で有無を言わせない文章。
小児を相手にするときの笑顔や物腰の柔らかさは皆無だ。
「……予定は空いているな……」
どこかでシフトを見られているのではないかと思う程、仕事と被らない。被ったとしてもなぜか仕事が変更になり予定があく。
重いため息をひとつ落として立ち上がる。
司書の仕事も忙しいんだぞ。と思いながらなぜか断りきれないのだ。
「了解、と」
単語の返信した。時計を見れば終業時刻でちょうど切りがよく仕事も片付いている。
「お疲れ様です、北洛さん」
北洛 司紋(ほくらく しもん)は、さっさと身支度をして帰路についた。
日の時間が長くなってきた茜空。目に染みるような赤と橙が口を不味くするのを感じながら、まだ囚われていると認識した。
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