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想
白い屋敷。と云えるだろう。広大な敷地に誂えられた白を基調にした二階建ての屋敷はおとぎ話のなかに出てきそうだ。
古坐魅と北洛を出迎えた依頼人である婦人は美しく不安を隠すように笑顔を貼り付けていた。
感情を失っているかもしれない。
震える声は落ち着こうと必死に押し隠した感情を浮き彫りにさせる。
「感情は欠落するものではありません。なにかの理由があって隠れたり、忘れたりすることはあります。ですから、少しづつ思い出してもらいましょう。どれくらい時間がかかるかわかりません。完全に治るとはいいきれません。それでも全力を尽くさせていただきます」
落ち着かせる声に不安という絡まった感情がすこし和らいだ気がした。真摯な瞳と誇張も偽りもない言葉。専門家は「絶対できる」とは言わないとなにかで読んだことがある。穏やかに微笑んだ医者を信用してみようと、思った。
「よろしく、お願いいたします……」
紅茶の香りと美しいが顔色の悪い婦人の声が重く細く空気を震わせた。
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