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正夢・始
古坐魅と北洛は現状維持の為、足跡を最低限残し部屋に戻っていた。
「……くろいものが、ぷかぷか浮かんでくるんだよ」
まるで叶の夢を現したような現場だった。
うわごとのように謳うように叶は呟いている姿はどこか知らない場所を覗き込んでいるようですこし不安になる。母親の腕のなかでぼんやりと、どこかを見つめて謳うように呟いく子供は異質だった。
「ぷかぷかうかんでる、くろいものは、もくもく雲といっしょだよ」
ぼそぼそと呟いている我が子を抱き締め、詩乃は古坐魅に泣きそうな声で伝えた。
「古坐魅先生、この子は「恐怖」がわからないのでしょうか……。この間、間違えてホラー映画を家族で見たときに、今までなら怖がっていたはずの叶が笑ったんです……、大人も怖いと、思うシーンで、笑ったんです……」
青ざめた詩乃の膝の上で叶は眠たそうに顔を腕に擦り付けていた。
「そうですか……。一概にはなんとも言えませんが、もしも恐怖を忘れているとしたら、どうしてそうなったかを探さなければいけません。わだかまって絡まった糸をほぐさなければいけません。今は警察が来るまでにすこしでも落ち着きましょう」
大丈夫ですよ。と微笑んだ。
一部始終を見ながら北洛は「やっぱりうさんくさい」と思っていた。聖護院家族ではない。古坐魅丞という医者が胡散臭い。どこまでも見透かしたような、この事件の真相さえ見通しているようなその姿勢が、視線が、胡散臭いと思ってしまう。
そんな思考を消すように、警察の訪れを告げる鐘が鳴った。
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