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恋が実る

 今日は水嶋先生の教育実習の最終日だ。  校庭を走りながらチラチラと職員室を見ると、水嶋先生が優しい笑顔で校長先生と話しているのが見えた。もしかして俺の部活が終わるのを待ってくれているのか。  部活が終わった途端、速攻制服に着替えて、俺は廊下を一目散に走った。  先生っ……先生どこだ?まだ帰るなよ!  梅雨明けしたばかりの真夏日だった。冷房の切れた校舎は蒸し暑くて汗が額に浮かんでくる。やがて視界に廊下を歩く先生の後ろ姿を捉えた。  追いついた。先生を捕まえた! 「先生!」と大声で呼べば、立ち止まり振り向いてくれた。  先生の額にも大粒の汗が浮かび、それが頬まで伝い垂れていた。 「すごい汗だな、先生」  その汗を追いかけたくて指先で拾うと、先生の方も僕の汗を拾ってくれた。  「今年の梅雨明けは早かったな」  先生に暗号のような言葉を贈ると、先生はにこっと微笑んで告白してくれた。 「僕たちの恋の始まりも早かった」  両想いになったのが嬉しくて、涙が出た。 「おい、泣くなよ」 「泣いてない。これは汗が沁みて……」 「まだまだこれからだよ。お前はまだ学生だし……」 「分かってる。先生に絶対に迷惑はかけない。でも今の俺……水たまりをジャンプしたい程、嬉しいよ!」  俺は先生と走り出せる!  先生の人生は、もしかしたら今までは梅雨空のように曇天続きだったかもしれない。でも梅雨が明けた空の向こうに何があるのか見たいだろう?  俺と一緒に見に行こうぜ!  だから……もう泣きながら俯いて歩かないでくれ。  雨上がりの水たまりは俺と一緒に飛び越え避けて、前に進んでいけばいい。  先生のこれからの人生には、いつも俺が傍にいるからさ。

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