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第10話
「俺でしたぁ。」
室町さんが、先端に塗られた赤を上にして割り箸を振りながら自慢げに名乗った。
「お前イカサマかよ。」
「与座さん、たまたまですよ。さてと名取くん、後はね。王様が、数字もしくは全員に1度命令をするから、呼ばれた人はそれに従うのみだよ。もちろん呼ばれなかった人はなにもしなくて大丈夫だからね。せっかくだから、名取くん当てたいよなぁ。」
「……。」
室町さんが、頬杖をつき、じっと僕の目を見つめてきた。吸い込まれるような瞳にいろんな意味でどきどきする。
「じゃあ、言うよ。2番が1番にデコピンをされる。」
「え!?」
「マジか。」
僕と与座さんが、同時に反応した。
もしかして、与座さんが1番なのかな?
与座さんにデコピンするの緊張するなぁ。でも、普段やられてる側からすればちょっと楽しみだったりもする。
「良かった。普通の命令で。」
白坂さんが呟き、ジョッキに口をつけた。
「ま、最初だからね。で、どっちがどっち?」
室町さんが、ニヤニヤしながら僕と与座さんを交互に見た。
「俺、2」
「僕は1です。」
僕と与座さんが割り箸を先端の数字が見えるように持ちかえ、お互いの顔を見合った。
「俺がお前にデコピンされるわけだな。」
「は、い」
与座さん、目力強いから怖いよ。思わず目を逸らしてしまった。楽しみって思ったのを撤回したい。後を考えると怖いよ。
「与座さん、名取くんに圧力掛けないで下さいよ。」
「分かってるさ。じゃ、名取遠慮しないでいいからさー。」
「…はい。」
与座さんが僕の方を向き、自ら前髪を掻き上げた。
「えいっ。」
ばちん。
僕は、覚悟を決めて、目を閉じたまま僕は与座さんのおでこめがけてデコピンをした。思いの外いい音がしたので、自分でもびっくりしてしまった。
「いてえ。」
与座さんは、眉根を寄せて片手でおでこを抑えた。
ヤバい。ホントに痛そう。怒られないよね?内心ヒヤヒヤだよ。
「すみません。」
「んな謝んなよ。ゲームなんだから。」
僕の肩をぽんぽんと軽く叩いてから、額に当てた片手を下ろした。チラッとおでこが見えたけど、僕がデコピンした箇所が少し赤くなっていた。
僕の脳裏にさっき背中を叩かれた時の事が過る。あれは、本当に痛かったなぁ。それを考えればデコピンくらいなんてことないよね。うんうん。大丈夫、与座さんだもの。と、自分に言い聞かせるけど、今ので精神力が削られたよ。
「次いくぞ。今度はイカサマさせねえからな。俺がやるから、割り箸貸せ。」
「「「はい。」」」
僕たち3人は、割り箸を与座さんに手渡した。与座さんはそれを受けとると先端を持ったままシャッフルした。
「引け。」
その声を合図に僕たちは、一斉に割り箸を引いた。
また、1番だ。室町さんと白坂さんは、相変わらずポーカーフェイスだ。だけど、ふたりの視線は、与座さんに注がれており、僕がつられて彼を見ると口元がニヤついているのが、ありありと分かった。
与座さんが王様かな? 分かりやすすぎるよ。
「「「「王様だーれだ」」」」」
「はい。俺。」
予想通り与座さんが名乗り出た。
「与座さん、僕、与座さんだってわかりましたよ。」
「マジさー。名取にバレるとか相当だな、俺」
「ひどいですよ。そんな言い方しなくても」
「ああ。悪い悪い。冗談だって。それで、命令は、痛い系のがきたからその逆で…」
与座さんが、勿体ぶるようにゆっくり一口お酒を飲み、
「1番が3番に3分間擽 られる。」
言ってから、グラスを音を立てて下ろした。
ええ!? 今度は、『する側』だったのに『される側』になっちゃうの?しかも僕、擽られるのって、僕すごい苦手だよー‼ 与座さんは、王様だから除外するとして、室町さんから白坂さんに擽られるって、事だよね?どっちだろ?
ふたりの顔を交互に見るけど、ふたりとも与座さんみたいには、なかなか表情に出してくれない。
「名取くん、泣きそうな顔になってるけど、大丈夫?そんなに俺にくすぐるられるのイヤ?」
室町さんが、僕の目を見て微笑んだ。
「イヤというか…。くすぐられるのは苦手で…。あれ?室町さん、今、俺に擽られるって言いました?」
「うん。言ったよ。俺が3番。名取くんが1番だよね?」
「…はい。」
「げっ!? お前が擽る側かよ。」
与座さんが、心底がっかりとでも言うような顔を浮かべた。
「命令したのは、与座さんですからね。さてと、名取くん、そこだと狭いからちょっと移動しよっか?ジャケットも脱ごうよ。動くと暑くなるから。」
「は…い」
室町さんが、こっちのテーブルと向こうのテーブルの間のスペースを指差した。そして、彼は白坂さんの肩に触れながら、立ち上がり、彼の後ろを通って抜けると自分で指差した場所で立ち止まった。僕もジャケットを脱ぎハンガーに掛けてから彼と対峙するように立った。
室町さんって、何回も思ってるけど、黙ってればイケメンって言っちゃ悪いけど、顔ちっちゃくてかっこいいんだよなぁ。腕捲りから見える腕も太い腕ってわけじゃないんだけど、筋肉の筋が見えて、眼福なんだよね。指も綺麗だし、いい匂いもするし同性なのに近くにいるとドキドキしちゃうな。
「別に脱がせなくてもいいだろ?」
「そうですか?擽られてる側って動くから脱いでたほうがいいんですよ。それに布が厚いと感度が鈍りますしね。白坂も思わない?」
「俺も着たままでいいと思いますけど?」
「白坂は着衣が好きっと。覚えておくわ、俺。」
「そう言う意味で言ったわけじゃないですよ。」
「室町、たかが擽るだけで下ネタ連発するのは止めろよな。」
下ネタ?僕は、3人の会話の中に下ネタが含まれていたなんて全然気づかなかったけどなぁ。与座さんも白坂さんも室町さんを見上げながら、苦笑いを浮かべている。
「当の名取くんがイヤそうにしてないんだから、いいじゃないですか?名取くんが引いてたら俺もさすがに自粛しますよ。名取くん、後ろと前はどっちからがいい?」
「えーと、前だと顔見られるの恥ずかしいんで、後ろからの方がいいかもです。」
「名取くんは、後ろかぁ。了解。じゃあ、ここ座って。」
「はい。」
僕は、室町さんに背を向けるようにして、正座をした。室町さんは、僕の体が自分の足の間に入るように足を広げて膝を立てるようにして座った。後ろに気配があるだけで、これからされることを考えるとまだ何もされてないのになんとも言えない緊張感が走る。僕は不安な眼差しを後ろに向ける。
「それで、時間は与座さんが計ってくれる感じですか?」
「まあな。きっちり計るから、止めろと言ったら止めろよな。」
与座さんが、スマホを取り出した。
「分かってますよ。ホントに名取くんセコムが厳しいんだから。」
「はじめるぞ。スタート」
与座さんの声と共に室町さんの指が、僕の腰をくすぐり始めた。
「あっ、いきなり腰はやめてくださいよ‼あはは」
「それなら、どこならいいの?脇かな?」
腰を擽っていた指が、脇へと移動した。
「脇もダメですって‼もう、室町さんくすぐるの上手すぎますよ‼あははは…」
僕は、自分の膝を叩きながら、笑い転げる。
「次はどうしようかな?」
ふぅ。
「あっ……ちょっとそれはっ………っ。」
一旦僕の体から室町さんの手が離れたかと思うと楽しげな声と共に耳に生暖かい息が吹き掛けられた。
ひゃー。これは、くすぐたさとはまた違って、なんともいえないむずむずさと身体中の力が抜けて行くような感覚があるよ。僕は、肩を震わせ、むずむずに耐えようとする。
「室町さん、今のは反則ですよ‼くすぐりとは違いますって!!」
「ごめん。ごめん。名取くん、ホントに申告通り感度めっちゃいいね。じゃあ、これは?」
「あ、もうダメです‼ あはは…。その触り方ホントくすぐったいです。力抜けて無理ですよ!! 」
今度は室町さんの手が膝小僧から太腿までをさわさわと指で撫で始めた。膝は自分でも苦手なのは分かってるけど、太腿を蟻が這うような感じでさわさわ撫でられるのもすごいくすぐったい。
ぞわぞわとした感覚が膝から背筋へ伝い、目に涙を浮かべながら身体を捩る。彼の指が僕の足を撫でる度に全身の力が抜け、体勢を保つことができずに足を伸ばして後ろに崩れ落ちた。かろうじて、後ろに彼の体があるおかげで、僕の体は仰向けに倒れずにいられるようなものだ。
「それ無理ですよ!! あははっ、もう、与座さん、時間まだですか?」
「お?ああ。あと1分。」
与座さんが、反応鈍く答える。
「あひゃひはっ。そんなにあるんですかぁ!!ごまかさないで下さいよ!!」
「ごまかすわけねえだろ。時間来たら、音鳴るようにしてっから、安心して擽られてろ。」
「ひっ……あははは………ひゃぁっ!?」
再び腰をくすぐり始めたかと思うとそのまま背中に移動し爪の先でツツーとゆっくりなぞるように下から上へと這わせていく。
待って。待って。そこは、白坂さんにおしぼりを背中に当ててもらった時に変な声が出ちゃった場所だよ‼
今までの集大成とでも言わんばかりに爪先から頭のてっぺんまで、くすぐったさの極みみたいな感覚が僕の体を襲う。
ヤバイ。また変な声が出ちゃった気がするけど、今のって3人には気づかれてないよね?聞かれてたら恥ずかしい。
「名取くん、ホントにバックの方が好きそうだねえ。背中めっちゃ弱いんだ。」
「あははは。無理です!! 無理です‼ これ以上擽られたら、僕、ホントに死んじゃいますってっ!!」
僕は、手足をバタつかせ、室町さんの指から繰り広げられる揺るかな拷問を受ける。
暴れすぎたせいで、身体中が熱くなり、息継ぎも忘れそうなくらい笑い転げ、体がおかしくなりそうだよ。
ピピッ。
間もなくして、与座さんの方から電子音が聞こえた。
「おい。時間だぞ。」
与座さんの声に室町さんの手が僕から離れると僕は、そのまま後ろへずるずると崩れ、室町さんの足の間で仰向けに寝るような体勢になってしまった。
「名取くん、ごめん。大丈夫?これから以上は後ろに下がんないでね。当たるから。」
「あっ、すみません。でも、今、力抜けて起き上がれないです。」
彼の言葉に左横を見ると彼の太ももが目に入った。当たると言うのは、股間ってことだよね?足の間に頭をいれてるなんてめっちゃ恥ずかしい。だけど、もう動けないよ。
「名取くん、かわいい事言ってくれるねえ。擽りがいがあったよ。あんだけ反応いいと見てるのも楽しかったでしょ?ね!与座さん」
「俺に振るな。名取、手を貸すから、早くこんなやつからは離れろよ。」
「あ、すみません。」
与座さんが座ったまま僕に近づき、僕の両腕を掴んで、引き起こしてくれた。
「名取さん、髪にゴミついてますよ。」
「あ……。」
白坂さんの声が後ろから聞こえたかと思うと、スッと襟足の辺りに触れるとすぐに離れていった。
くすぐられた時の余韻なのか髪にも神経が通ってるのかってくらいほんの一瞬触れただけなのに擽られた時と似たようなぞわぞわした感覚が背筋に走る。室町さんに言われてジャケットを脱いだのも正解だったかも。また体がポカポカしてきたよ。頬も熱い。
「どうしたの?名取くん、お酒飲んでる時よりも顔赤いよ。白坂がゴミとるついでに変なところ触ってた?」
「違いますよー。白坂さんは悪くないです。顔が赤いのは、擽られてたときにすごいポカポカしてて、それが収まってないだけですよ。」
室町さんが僕の肩に触れ後ろから僕の顔を覗きこんできた。
うわぁ。イケメンの顔が近い‼ 見られてると思うと尚更照れてますます頬が赤くなっちゃうよ。僕は、自分の両頬に手を当て与座さんの方に目を向けた。与座さんは見慣れてるから近くても大丈夫なんだよね。
「だろうな。あれだけよがれば暑くなるだろうさ。」
「やだなー。与座さんのえっち。名取くんがよがってただなんて。俺の事言えないですね。」
室町さんが、ニヤニヤ笑みを浮かべる。
「バカ。んなこと言ってねーよ。『よじる』じゃ、ボケ!!とっとと次始めるぞ。名取、ボーとしてないで自分の席に戻れ‼次行くぞ‼」
「うわぁっ!? ちょっと与座さん痛いですよ。」
与座さんに腕を引っ張られ、引き摺られるように自分の席に戻った。
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