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第11話
「悪かったな、名取。腕大丈夫か?」
「大丈夫です。とりあえず次行く前に笑いすぎて喉乾いたんで、お水だけ飲ませて下さい。」
「ああ。」
僕は、お水を飲もうとグラスを手に取り、それを一気に喉に流し込んだ。
あれ?なんだろ?この芋臭いにおいが口の中から広がる感じは。
「名取、それ俺の酒だぞ。」
「ええ!?」
自分が手にしているグラスを見るとたしかに与座さんが飲んでいた焼酎のロックの小さいグラスだった。僕の視界にカルピスサワーの横にある透明の液体が目に入る。
途端に上昇した体温が下がるどころかなんとも言えぬ微熱に侵されたときみたいなぽわぽわとした温かさが、頭の中に広がっていく。
「名取くん、全部飲んじゃったけど、大丈夫?」
「はーい。大丈夫ですー。でも、口の中がいも臭くって、それがちょっと……。」
僕は、掌に息を吐きそれを嗅ぎ、慣れない臭いに眉間に皺を寄せる。
「名取さん、とりあえず水飲んだほうがいいですよ。」
「あ、ありがとうございます。」
白坂さんが、僕のところにある本物の水を手に取り、手渡してくれた。僕はそれを受け取ると半分くらいまで飲んだ。
お水の無機質な味が、喉の奥まで染み渡る。おいしいな。
そのおかげで、口の中に残るいもいも感と頭の中の熱が徐々に薄らいでいく。
「与座さん、同じのでいいですか?」
「ああ。」
「じゃあ、俺も同じ冷酒。」
「名取さんは、どうします?水追加しますか?」
白坂さんが、メニューを片手に僕に尋ねる。
「お水は大丈夫です。マッコリお願いします。」
「マッコリね。了解です。水欲しいときはいつでも言って下さい。」
「お気遣いありがとうございます。」
僕がぺこりと白坂さんに頭を下げると白坂さんは、微笑みでそれを受け止め、呼び出しボタンを押した。
今度は、先ほどとは違って、呼び出して間もなくすぐに店員さんがやってきた。
僕が空いたグラスを店員さんに渡し、白坂さんが注文をすると店員さんはすぐに戻り、飲み物も今度はすぐに持ってきてくれた。
「飲み物もきたし、次行くか。おら、割り箸貸せ。」
与座さんが、たばこを灰皿に置き、自分の割り箸を振り回す。
「与座さん、乗り気ですね。」
「おう。そりゃ、次こそはお前にぎゃふんと言わせるような事がしてえなと思ってさ。」
「ぎゃふんって、リアルで使ってる人初めて聞きましたよ。」
「別に通じんてんだから、いいだろ?おら、つべこべ言ってないで早く箸寄越せよ。」
与座さんが室町さんに向かって手を差し出す。
「はい。」
「これもどうぞ。」
「あ、僕のも。」
室町さんに続き、白坂さん、そして、僕が与座さんに割り箸を渡した。そして、与座さんは、それをシャッフルすると、中央に向かって箸を持った手を伸ばした。
「引け」
一斉に与座さんが持つ割り箸の束から各々1本ずつ引く。
今度も僕は1番だった。
今度の王様は誰かな?
まずは3人の中だと一番分かりやすい与座さんの顔を見ると彼は、手で口元を抑えていた。だけど、口元は隠せても目元はいつもの倍以上に見開いており、明らかに自分が王様であることを抑えきれていないのは、僕にも分かった。
室町さんなんか白坂さんにお酒を注がれながら、お猪口を持つ手が笑いをこらえるのに震えてるもんなあ。わかりやすすぎて僕も笑いそうになってしまう。
「「「「王様だーれだ」」」」
「俺。」
案の定与座さんだった。
「与座さんのほうこそ連続だなんてイカサマじゃないですか?。白坂なんか全然参加してないですよ。」
「そういや、白坂なんもしてないな。俺よりも白坂疑えよ。ゲームに参加したくないからってなんか裏工作してるだろ?」
「ひどいなぁ。お二人とも言いたい放題言って。俺も参加はしてますよ。ただ運よく当たっていないだけです。」
白坂さんが、ジョッキから口を離し、苦笑いを浮かべる。
「ま、白坂を参加させるには与座さんが全員参加できるような命令にすればいいんじゃないんですか?それが手っ取り早いですよ。白坂をピンポイントで狙うのは俺でも難しいかも。」
「おお。そうだな。じゃあ、3番2番1番の順で苦手なものの話しろよ。食い物は、なしな。」
「それ聞いて、与座さんは俺にいつかぎゃふんって言わせたいんですか?『まんじゅう怖い』みたいに好きな物言うかもしれませんよ。『おっぱいが苦手です。』とか。」
「おまえなー。」
与座さんが、苦笑いを浮かべる。
「あはは。やだなぁ。冗談ですよ。真面目に話しますって。」
ケラケラ笑いながら、お猪口の冷酒をくいっと飲み干した。そして、すぐさま白坂さんの前に空のお猪口を向けると白坂さんは、割り箸を持ちながらすぐに冷酒をそれに注いだ。
「まさかお前が3番か?」
「はーい。そうですよ。すごいですね、分かるなんて。」
「なんとくな。で、まさかとは思うが白坂の割り箸には番号入ってるよな?」
「ありますよ。2番です。」
白坂さんが、番号が見えるように割り箸を持ち替えた。
「おお。ちゃんと番号書いてあるな。そうすると1番が名取?」
「はい。僕です。」
僕は、番号を与座さんに見せた。
「名取は、今のところ全参加か。お、前髪にほこりついてるぞ。取ってやるからじっとしてろ。」
「すみません。あ、自分で取りますよ。」
「いいって。取ってやるよ。」
与座さんが、僕の前髪の1房を掴み、ほこりを指で摘まんだ。
あれ?白坂さんの時は、髪一本触れただけなのに擽ったいようなむずむずした感じがあったのに与座さんが、触れてもなんとも思わないや。
白坂さんは、優しくふわって感じだったけど、与座さんは、ささっと雑な感じだから、触り方の違いかな?
与座さんの顔を見ながら真顔で考える。
「どうした?難しい顔して俺を見て。」
「いえ。なんでもないです。」
僕は、素っ気なく答え、入口の方を向くとマッコリに口をつけた。
この味やっぱなんか違うかも。前にマッコリを飲んだ時はなんともなかったのに今飲んでるこれは、ひとくち飲むたびに頭がふわっとしてくるよ。
もう一口グラスに目を落として味わうようにゆっくり飲んでいると正面から視線を感じ、僕はグラスを下ろして顔をあげた。
視線の主は、白坂さんだった。
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