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第7話

「……そんなことより自己紹介がまだだったな。名前は前にも言ったような気がするけど、本町雪人。T大学二年で二十一歳。おまえには数学と英語と化学を教えるから」 「…………」 「おい、空。返事は?」 「気安く呼ぶな」  空が反抗してくるのを無視して、雪人は殊更にやさしく笑ってみせる。  女性だと一発で落ちてしまうその笑顔も、自称エイリアンの生意気少年には通用せず、あからさまに溜息をつかれた。 「おまえな、人の顔見て溜息つくなよ」 「しかたないだろ。石頭。……本当はエイリアンだってこと隠さなきゃならないんだけど、あんたには意地でも信じさせたくなってきた」 「もうその話はいいから」 「今からあんたにテレパシーを送ってやる」 「はあ?」  ……また訳の分からないことを言い出した。  雪人がそう思った次の瞬間、頭の中で空の声が響いた。 〈おい、聞こえるか……? 雪人〉  目の前にいる空はピクリとも唇を動かしてはいないし、なによりその声は確かに直接雪人の脳裏に聞こえてくる。  どんなに疑ってみようとしても、そこには種も仕掛けもなくて。  超能力者かエイリアンか……どちらにせよ空が普通の人間ではないことだけは認めないわけにはいかないようだった。  呆気にとられている雪人の前で、空がひどく疲れたように息を吐き出す。 「……テレパシーを使うのはすごくしんどいんだよ」 「……大丈夫かよ?」  座っている椅子から今にも滑り落ちそうになっている空を雪人は支えてやった。 「大丈夫……これで少しは信じる気になったか?」  椅子に座りなおしながら、空が挑むように雪人を見る。 「まあ、な」  そう答えざるを得ない。

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