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第8話

 ノックの音がして、空の母親が顔をのぞかせた。  手には雪人が手土産に持ってきたケーキと、紅茶がのったトレイを持っている。 「空、先生にわがまま言ってない?」  ニコニコと優しそうな笑みを浮かべながら、空の母親は小さなテーブルの上にケーキと紅茶を置く。 「言ってねーよ」 「先生、空は口が悪いので、そこらへんも厳しくしてやってくださいね」 「はい」  母親が出て行ったあと、空が聞いて来る。 「このケーキ、あんたが持ってきたの?」  テーブルの上にあるチョコレートケーキとイチゴのショートケーキに視線を投じる空は超ご機嫌である。  どうやら空は甘党のようだ。  ……甘党のエイリアンねぇ……。  人間というものは一度受け入れてしまうと、あとは耐性ができるものらしい。  雪人は早くも空が地球人ではないということに慣れ始めていた。 「『このケーキ、先生が買ってきたんですか?』だ。おまえ、マジ口悪いな」  雪人が注意をすると、 「うるさいな。あんまり小さいことにこだわってるとモテないぞ。雪人」  またもや生意気な言葉が返って来る。 「あのなー、俺は一応おまえの先生なの。呼び捨てを止めなきゃ、このケーキ食わしてやんないからな」  雪人はチョコレートケーキとショートケーキの皿を手に取ると、空から遠くへ離してしまう。 「雪人、ずるいぞ。ちょっと背が高く、手足が長いからって威張ってんじゃねぇ」  必死になってケーキの皿を奪い返そうとする空の様子は子供っぽくて、なんだかかわいいとさえ思ってしまう。 「雪人先生って、言えたら食わしてやる」  雪人が空を見下ろしながら言ってやると、舌打ちをしたあと、消え入りそうな声で言った。 「…………雪人……先生」  生意気美少年エイリアンを言い負かすのはすごく快感だった。  雪人は満足してうなずくと、ケーキをテーブルへと戻す。  空が「くそムカつく」と零したのは聞こえなかったことにしてやろう。

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