8 / 62
第8話
ノックの音がして、空の母親が顔をのぞかせた。
手には雪人が手土産に持ってきたケーキと、紅茶がのったトレイを持っている。
「空、先生にわがまま言ってない?」
ニコニコと優しそうな笑みを浮かべながら、空の母親は小さなテーブルの上にケーキと紅茶を置く。
「言ってねーよ」
「先生、空は口が悪いので、そこらへんも厳しくしてやってくださいね」
「はい」
母親が出て行ったあと、空が聞いて来る。
「このケーキ、あんたが持ってきたの?」
テーブルの上にあるチョコレートケーキとイチゴのショートケーキに視線を投じる空は超ご機嫌である。
どうやら空は甘党のようだ。
……甘党のエイリアンねぇ……。
人間というものは一度受け入れてしまうと、あとは耐性ができるものらしい。
雪人は早くも空が地球人ではないということに慣れ始めていた。
「『このケーキ、先生が買ってきたんですか?』だ。おまえ、マジ口悪いな」
雪人が注意をすると、
「うるさいな。あんまり小さいことにこだわってるとモテないぞ。雪人」
またもや生意気な言葉が返って来る。
「あのなー、俺は一応おまえの先生なの。呼び捨てを止めなきゃ、このケーキ食わしてやんないからな」
雪人はチョコレートケーキとショートケーキの皿を手に取ると、空から遠くへ離してしまう。
「雪人、ずるいぞ。ちょっと背が高く、手足が長いからって威張ってんじゃねぇ」
必死になってケーキの皿を奪い返そうとする空の様子は子供っぽくて、なんだかかわいいとさえ思ってしまう。
「雪人先生って、言えたら食わしてやる」
雪人が空を見下ろしながら言ってやると、舌打ちをしたあと、消え入りそうな声で言った。
「…………雪人……先生」
生意気美少年エイリアンを言い負かすのはすごく快感だった。
雪人は満足してうなずくと、ケーキをテーブルへと戻す。
空が「くそムカつく」と零したのは聞こえなかったことにしてやろう。
ともだちにシェアしよう!