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第9話
空はどうやらチョコレートが好きなようで、二つのケーキのうち迷うことなくチョコレートケーキを選んで、今目の前でこれ以上はないくらいに幸せそうに食べている。
雪人はそこまで甘いものが好きではないので、ショートケーキには手を付けず紅茶だけを飲んでいた。
「なあ、空。聞いていいか?」
「なに?」
「おまえら家族で地球に移住してきたのか?」
さっき顔を出した優しそうな母親、空がエイリアンならあの人も、今はまだ面識がない父親も、兄弟がいるなら兄弟も、みんなエイリアンということで……そんなふうに考えるとなんだか、周りがみんなエイリアンなような気がしてきて不安になって来る。
しかし、空の答は雪人が思ってもいないものだった。
「父さんも母さんもれっきとした地球人だよ」
「え? でも」
一体どういうことか、訳が分からない。
空はチョコレートケーキの最後の一欠けらを飲み込んでから、ゆったりと言葉を繋いだ。
「俺たちにはさっきのテレパシーと同様あんたたちにはない能力があって。……そうだな。地球の言葉で言うと催眠術っていうのが一番近いかな。早い話が父さんと母さんに俺が息子であるって暗示をかけて思いこませたんだよ」
「なっ……」
「誤解しないで欲しいんだけど、別に無理やり洗脳したわけじゃねーよ? 父さんと母さんにはもともと子供がいなくて、でも子供が欲しくて。だからなんの抵抗もなく俺の催眠暗示にかかってくれたんだよ。心の中に少しでも抵抗があれば、俺の力っていうか暗示はきかねーから」
雪人は先程の空の母親の笑顔を思い出す。確かに幸せそのものの笑顔をしてはいたけれども。
「実は俺、雪人……先生にも術っていうか暗示かけたんだよね。あの山の中でのことを全部忘れるようにって。でも、あんたは全く忘れてない。先生の心の中に抵抗があったからだよ」
「…………」
雪人はどういう返事を返していいか分からず、またしても頭を抱えてしまう。
……できることなら全て忘れてしまいたかった、と心底思う。
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