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第13話
家庭教師のバイトは、空の夏休み中は土・日を除く平日の五日間、夏休みが終われば、月・水・金の放課後と土・日という約束だった。
まだ高校一年生の空にはずいぶんハードなスケジュールだが、希望している大学が成績よりかなり上のランクらしい。
とはいえ、空の故郷の星はなにもかもが地球よりも進んでいるらしいし、成績もトップクラスだったと本人は豪語していた。雪人も実際に精密なUFOを目の当たりにしている。
その上にテレパシーまで使われたこともあり、空の成績が悪いとは思えない。
だが……。
「おい、空! なんだよ? この点数は!?」
家庭教師二日目。
今の空の実力を知るために簡単なテストをしたのだが、数学も英語も科学も一桁という散々な結果だった。
「おまえは超優等生で成績はトップクラスだったんじゃねぇのか?」
頭の上から怒鳴り散らすと、空はふくれっ面で言い返してくる。
「しかたねーだろ。うちの星ではまだここまで進んでいないんだから。習ってもいないところなんて、分かるはずない」
「おまえの星は地球よりもなにもかもが進んでいるんじゃないのかよ?」
「俺はなにもかもなんて言ってない。科学と能力が少しだけ進んでるって言っただけで、勉強の進み具合のことなんて一言も言ってない」
屁理屈をこねる空に、腹が立つのを通り越して呆れる。これが普通の生徒なら軽く頭をはたいてやりたいところだが、痛覚がすごく鋭い空にそんなことをすれば、泣き叫んで痛がるだろう。
泣いてる顔はかわいいけれど。
痛がっている顔は見たくない。
雪人は自分でもつかみきれない自身の気持ちを持て余しつつ、空にこんこんと説教をする。
「先生ー。もうお説教はいいから、ちょっと休憩しようよー」
空がちらちらと盗み見るのは先程、母親が置いていったおやつのドーナツとオレンジジュース。
「早く飲まないと氷が溶けちゃうし、ドーナツも置いておくとアリが来るかもよ」
「だめ。休憩は問題集を解いてからだ」
「ケチ、馬鹿。鬼。DV教師」
ブツブツと文句を言いながら、涙目で雪人を睨んで来る。
大きな目を涙で潤ませ、小さくて形のいい唇をとがらせる表情は子供っぽいはずなのに、どこか扇情的で。雪人の胸の奥がトクンと鳴った。
なに、こんな生意気なガキにときめいてるんだよ、俺は。
自分自身の気持ちが不可解な雪人は、わざと大げさに顔を顰めてみせる。
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