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第15話
柔らかな髪は指どおりが良く、とても触り心地が良かった。
空は最初は痛いことをされるのではないかと体を硬直させていたが、雪人が髪をやさしくすくように撫でてやっているうちに、徐々にリラックスしていく。
目を細めて、雪人にされるがままになっている空はまるで子猫のようで、今にもゴロゴロと喉を鳴らしそうだ。
どうやら空は痛覚だけではなく、あらゆる感覚が敏感なようで、それこそ髪の毛の一本一本にも神経が通っているかのように、撫でられるのを甘受している。
雪人の方も、初めて見る空の無防備な表情がかわいくて撫でるのを止められない。
しばらく髪を撫でてやっているうちに、空はウトウトとうたた寝をし始め、そのうち熟睡してしまう。
……まずい。眠っちまった。まだ今日の分の授業あと一時間残っているのに。
気持ちよさそうに眠る空を起こすのはかわいそうだったが、起こすより他ない。
でも、どうやって起こすか。
乱暴に揺さぶって、心臓麻痺でも起こされたら大変だ。
なにせエイリアンなんかと出会ったのは、当然だが初めての経験で、相手がどれくらいに刺激に敏感なのかもまだ分からない。
雪人は空の寝顔をしばし見つめた。
起きているときは生意気でわがままなところばかりが目立つガキだが、眠っている姿は、使い古された言葉だが天使のようだ。
エイリアンと天使か。俺にしてみればどっちも存在などしない生き物のはずだったのに。
昨日も思ったけど慣れってマジ怖いな。もう完全に空が異星人だということを受け入れてんだから。
そんなことを考えるともなしに考えながら、空をマジマジと見つめているうちに、今度はその滑らかな肌に触れたくなってくる。
マジかよ……。さっきから俺はいったいどうしたんだ? いくら綺麗だからって男の髪や肌に触れたいなんて思うなんて。こいつ、もしかして変なフェロモン出してるんじゃないだろうな。
そう思うも、空から目が離せない。
雪人は少しずつ空に自分の顔を近づけていく。そして昨日つねった頬へそっと自分の唇を押し付けた。
「……っ……」
途端に空は目を覚ました。
頬を押さえて大きく目を見開いている。
「ちょっ、あんた、なにしたんだよっ」
さすがに感覚が鋭いだけあって、ふわりと触れるだけのキスにも過剰に反応した空が真っ赤になって怒鳴って来る。
「いや。眠ってて起きないから。起こしてやっただけ」
「普通に起こせよ!」
「一番手っ取り早いかなと思ってさ。それより空、まだ勉強の時間残ってるから。次は数学の教科書出して」
「……っ……信じらんねー」
真っ赤になったまま数学の教科書を乱暴に開く空と、落ち着いた様子で公式の使い方を教える雪人。
一見対照的な二人だったが、本当は違っていて、雪人の鼓動もまた乱れに乱れていた。
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