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第20話

 次の日。  車に乗って迎えに行くと、いかにも不機嫌と言った顔をして空が自宅から出て来る。 「おまえな、もう少し楽しそうな顔できないのかよ」 「うるさいな。先生が頼むから付き合ってやるんだからな」 「相変わらず憎たらしい奴だな。……ああ、そっちじゃなくて助手席に乗って。空」  後部座席の方が寝っ転がれるのに、とかなんとかブツブツ言いながらも、空が助手席へ乗り込む。  見送りに出て来た空の母親に挨拶をすると、彼女はおかしくてたまらないとばかりに笑っている。 「空ってば、昨夜は興奮してなかなか眠れなかったみたいなの。今朝も早くから起きてそわそわとして。なのに、雪人さんが着いた途端、仏僧面を作ったりして素直じゃないんだから」 「……空くんが楽しんでくれればいいんですけど」 「もう充分楽しんでると思います。空の様子を見てればよく分かるわ。……二日間あの子をよろしくお願いします」  空の地球での母親がうれしそうに笑うのを見て、雪人もまたうれしくなった。  二人がほのぼのと内緒話を交わしていると、車から空の膨れた声が聞こえてくる。 「まだ? 先生。いつまで待たせるんだ?」 「今行く」 「いってらっしゃい」  手を振る空の母親に見送られて、雪人は車へと乗り込んだ。 「遅い。……いったい母さんとなに話してたんだよ?」 「おまえが素直じゃないって話」 「なんだよ? それ。人の悪口言ってんじゃねーよ」  空が拗ねる。 「ほんと、空ってばかわいい」  雪人は空を怖がらせないようにゆっくりとした所作で、その柔らかな髪に触れた。

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