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第23話
その日は少し肌寒かったせいか、砂浜にはほとんど人がおらず、二人は手を繋ぎながらゆったりと歩く。
空が寄せては帰る波を一心に見ている。
「おまえの星にも海はあるのか?」
「あるよ。でも、ほとんどが埋め立てられて、こんなにも広い海はもうなくなっちゃったけど。……海だけじゃなくって山もほとんどなくなったかな。今じゃ高層ビルの山ばかり。だからあの、UFOを隠してある山が俺は好きで、時々遊びに行くんだけど。地球人に見つかるとは思ってもいなかった」
そう言葉を紡いで、小さく笑う。
それは空が初めて見せた無邪気で、おそらく素のままの笑み。
その笑顔に雪人の胸は痛いほど早く脈を打ち、思わず繋いでいた手に力を込めてしまった。
「痛っ……」
「あっ、悪い」
雪人は慌てて手の力を緩めてから、今度は空の手と自分のそれとを絡める、いわゆる恋人繋ぎという形にする。
「なに変な手の繋ぎ方してるんだ?」
「恋人繋ぎ。知らない?」
「それくらい知ってる。俺が聞きたいのはなんであんたと恋人繋ぎしなきゃいけないのかだよ」
「ま、いいじゃん。こけるよりはマシだろ」
きつい目で睨みつけてきながらも、空は繋いだ手を離そうとはしない。
「なあ、空。おまえの星ってどっちの方角にあるんだ?」
雪人が問いかけると、空は繋いでいない手を南の方へ向ける。
「あっちの方かな……でも、もう帰ることもないから。どうでもいいけど」
……空は故郷の星で家族を失っているんだっけ。
「……ずっと地球にいればいいよ」
「え?」
空が小首を傾げて、雪人の方を見た。
雪人は、今は茶色の空の髪にふわりと触れてから、ゆっくりと自分の顔を近づけていく。
「ずっと地球に……俺の傍にいればいい」
「なに? 聞こえないよ。先生?」
雪人の告白の声はあまりにも小さくて波の音にかき消されて、空のもとまでは届かなかった。
その代わり雪人は空の小さな唇に、自分の唇を触れ合わせる。
空が大きく目を見開き、
「……あ……」
官能的な吐息を零す。突き飛ばされると思った体に縋りつかれ、雪人はこわごわと空の体を抱きしめた。
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