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第25話

 雪人の自宅は、どこにでもあるようなマンションの一室だった。 「……おまえ、なにしてんの? 空」  扉の所から中に入ろうとしない空に、雪人が訝し気に問いかけて来る。 「先生以外誰もいない?」  警戒も露わに聞き返す空に、雪人は腕を組んで苦笑する。 「おまえね、この部屋のどこに他の誰かがいるって言うんだ?」  1DKという間取りらしい部屋は扉の所からでも全体が見渡せた。  必要なもの以外は置かれておらず、殺風景で、誰かと暮らしているような感じはしない。  とりあえずそのことに胸を撫でおろしながら、空はおずおずと言ったふうに部屋へと上がった。 「お邪魔します」 「へえ、ちゃんと挨拶して入るんだ。意外」 「失礼なこと言うなよ。俺はいつだって礼儀正しいから」  頬を膨らませて言うと、雪人がふきだす。 「生意気言っちゃって。……そこらにテキトーに座ってて。飲み物はオレンジジュースでいいだろ」 「うん……」  部屋の真ん中に置かれた二人掛けのソファに座り、部屋をぐるっと見渡すうちに、また空の胸に不安が込み上げて来た。  きれいに掃除された部屋。ベッドカバーも整然と整えられている。  女の人が来て掃除しているのかな……。  雪人が女性にモテるだろうことは一目瞭然で。彼女がいないどころか複数人いてもおかしくないような気がしてくる。  そんな雪人にとってはキスなんて大した意味がないのかもしれない……。 「やば。冷蔵庫、ビール以外なにも入ってない。晩飯は出前を取るにしても、飲み物くらいは買って来なきゃな」  空の気持ちも知らず、冷蔵庫に顔を突っ込んだまま雪人が呟く。 「ちょっとそこのコンビニまで行くけど、おまえも行くか? って、なにそんな怖い顔してんだよ?」 「別に。……俺もコンビニ行く」  そう、別に俺には関係ないこと。雪人に彼女がいようがいまいが。  海でのキスももう忘れる。  だって雪人にとって俺はエイリアンで、俺にとって雪人はエイリアンだから、絶対にうまくいきっこないもん……。

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