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第38話
「もうすぐ十月だって言うのにまだまだ地球は暑い……」
大盛りのチョコレートパフェを食べながら、空が呟く。
家庭教師のない火曜日の放課後。
二人はいまだ強い日差しから逃れるために、喫茶店に避難していた。
「まあ、温暖化が問題になってるくらいだからな。……でも空、そんなにでかいパフェ食ったらさすがに涼しくなるだろ」
「全然。俺、熱いのには弱いんだ」
空はそんなふうにぐちるが、汗はまったくかいていないし、見ている分には充分涼し気なのだが。
「でも日が落ちるのは早くなったな」
雪人は窓の外の風景に視線を投じる。
さっきまではさんさんと照っていた日はずいぶん西へと傾き、もう薄暗くなり始めている。まさに秋の日は釣瓶落としだ。
「うん」
パフェの端に乗っているウエハースを手に取りながら、空もまた窓の外へと視線を向けている。
喫茶店の外は表通りに面しており、たくさんの人が行き来している。その様子を見るともなしに見ているとき、雪人の目がその男を捉えた。
その男は他の人間よりずいぶん体が大きかった。
身長はおそらく百八十センチ以上ある雪人よりも十センチは高いだろうし、横幅に至っては倍くらいある。
それだけでも目立っているというのに、そいつは真っ赤な髪をしていたのだ。
カチャンッと音を立てて空がパフェを食べているスプーンをテーブルに落とした。
「空?」
空は真っ青な顔をしている。
「おい? 空? どうしたんだ? 大丈夫か?」
雪人が心配しているあいだにも空の顔色はどんどん悪くなっていって、青いのを通り越して色を失い紙のように白くなっていく。
「空、気分が悪いのか? 急にどうした――」
「帰りたい……雪人」
空は口元を覆い、うつむきながら消え入りそうな声で訴えて来た。
その細い体はカタカタと小刻みに震えている。
「……分かった。立てるか? 空」
「……うん……」
雪人は半ば空を抱きかかえるようにして、喫茶店から出た。
外に出ると、空は雪人の体に隠れるようにしながら辺りを見渡し、細く息を吐きだした。
「ごめん、雪人。もう大丈夫だから……」
「ああ、でもまだ顔色が悪いな。今日はもう帰ろうか」
雪人はそう言い、空の家の方へと歩き出そうとしたが、すがりつくようにそれを止められる。
「やだ……今夜は雪人の部屋に泊まりたい」
「でもおまえ、明日学校あるだろ?」
「雪人の部屋から行くから」
「空……」
いったいどうしたというのだろう。
顔色は相変わらず悪く、必死な瞳で訴えかけてくる。
こんなことは初めてだった。
「……分かった。ちゃんと家に連絡入れろよ?」
「うん」
雪人が承諾すると、空はようやくホッとしたように微笑んだ。
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