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第42話
その日の夕方、家庭教師の時間。
空は一見いつもと変わらない様子だった。
けれどもいつも空だけを見ている雪人には分かる。ふとした時に見せる憂い顔は昨日までよりも格段に増え、心になにか重い屈託を抱えていることが。
「空、聞いてる?」
「え?」
「だから、三番の問題解いてみてって」
「あ、うん。三番ね。えーと……」
空はようやく三番目の問題に取り掛かり始めるも、シャーペンは全く動かない。
「はあ……。空、その問題の解き方たった今、説明したばかりなんだけど。その様子だと全然聞いていなかったな?」
わざと大きく溜息をついてやると、
「…………」
空は拗ねたように黙り込んでしまった。
雪人は空の、今は茶色の髪にそっと触れる。そのまますくように後ろに流してやると、細い髪がサラサラと指の間を滑っていく。
「なあ、空。なにか悩んでることあれば言ってくれよ。俺たち、恋人だろ?」
「…………」
それでも空はうつむいたままなにも言ってくれない。
「……俺、そんなに頼りないか? 空」
恋人の屈託さえ消すことができない自分が情けなくて、ついそんな弱音が口をついて出る。
「そんなことないっ……」
空は顔を上げ、そう言ってくれるけれども。
「じゃ話してくれよ。なにを悩んでるんだ?」
「悩んでることなんか、ない」
やっぱり肝心なことはなにも話してくれない。
「空……」
ふわりと唇を奪えば、敏感に反応した空が吐息を零す。
「あ……」
「俺に全て話して? じゃないともっとキスするよ」
そう囁いてぐんと顔を近づけると、空は頬を上気させて慌てる。
「ゆ、雪人っ……か、母さんが入ってきたらっ、どうするんだよ!?」
「息子さんを俺にくださいって言う。この際だから俺たちの仲認めて貰おう」
「……っ……」
真っ赤になって絶句する姿がかわいくて、雪人は空の華奢な体を抱き寄せた。そして耳元で囁く。
「おまえがエイリアンだってことも受け入れることができたんだ。もうなにを聞いても驚かないし、俺はいつだって空の味方だから」
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