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第43話
「雪人……」
空は澄んだ瞳に雪人を映して、なにかを言おうとし、逡巡してはまた唇を閉じる。
その動作を何回か繰り返したあと、意を決したように唇を開いた。
「雪人、俺――」
しかしその先の言葉を聞くことはできなかった。部屋の扉がノックされたからだ。
「は、はい」
空は雪人の腕の中から抜け出すと、上擦った声で返事をした。
ノックの主は空の母親で、おやつのワッフルを持ってきたのだった。雪人は本気で彼女に空との交際のことを話す決心をつけていたのだが、空の方は違っていたみたいで。
「先生、今日は本当にすいません」
空の母親が困ったように眉を下げ、頭を下げる。
「いえ。気分が悪いのなら仕方ありません。では、また明後日に」
雪人は穏やかに言葉を返したが、内心は全く穏やかではなかった。
空はおやつを持って入ってきた母親に『気分が悪いから今日はもう寝たい』と言い、そのままベッドへもぐり込んでしまったのだ。
一度は屈託の理由を雪人に話そうとしたが、ノックの音に邪魔をされたことで、勇気がしぼんでしまい逃げ出すことを選んだのだろう。
あのまま母親が来なければ、空は俺になにを話していたのだろう……。
雪人は自宅へと向かい歩いていた足をとめ、ポケットからスマホを取り出し、空にラインを送る。
〈気分はどう? 明日は会える?〉
だが結局、既読スルーされてしまった。
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