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第44話
次の日の木曜日。
午後の講義が二つ休講になり、雪人は時間を持て余すことになった。
空からの連絡がないので、会いに行く予定だったが、今はまだ高校で授業中だろう。
時間をつぶすため何気なく入ったデパートでアクセサリーフェアをしており、そこで雪人は一つの指輪に目をとめた。
五ミリほどの幅のシルバーの台に紅い石が一つ埋め込まれたシンプルなデザインで、その石の色が空の髪と瞳の色によく似ている。
空の細い指によく似合いそうだな。
雪人は近くにいる店員に声を掛けた。
いつもは駅前の本屋やコンビニなどで待ち合わせをするのだが、この日は何の約束もしていなかったので、雪人は空の高校まで出向いた。
下校する女子生徒たちに見られまくること数十分。ようやく校門の向こうに空の姿を見つける。
空は雪人の姿を見ると、ひどく驚き動揺した。
「雪人……どうして……?」
「誰かさんが俺の電話もメールも無視するから、会いに来るしかないだろ」
「…………」
「……とりあえず俺の部屋に行こう?」
「……うん……」
耳を垂れたうさぎのようにしょぼくれながらも、空は素直にうなずいた。
「空、気分はもう大丈夫なのか? まだ少し顔色が悪いけど」
いつもの定位置のソファに二人並んで座り、空に問いかけると、
「もう、平気」
そう言って笑ってみせるが、その真紅の瞳にいつもの勝気そうな光はない。
「空……」
真紅の髪に口づけると、ピクンと小さく体を震わせる。感じやすいのは相変わらずだ。
「……雪人……」
空の不安げな紅い瞳に情欲の色が混ざり始める。
雪人はすぐにでも空を押し倒してめちゃくちゃに泣かせてやりたい衝動を押さえた。
今はそれよりも大切なことがある。
「空、左手を出して」
「え?」
「左手」
「?」
空はきょとんとしながらも、言われた通り左手を雪人の方へと差し出す。
雪人はうやうやしく空の左手を取ると、薬指へそっと指輪をはめてやった。
「雪人……これ……?」
空がもともと大きな目を更に大きく見開いて驚いている。
「ぴったりだ。……おまえ本当に指も細いのな」
シルバーの台に紅い石が入った指輪は、空の細く白い指によく映えている。
雪人は居住まいを正し、空の、指輪の石と同じ色の瞳を真っ直ぐに見つめ、言葉を紡いでいく。
「おまえの星ではどうか分からないけど……地球では左手の薬指は特別で……。ここに指輪を贈るのはいつまでも一緒にいたいという証なんだ。俺はこれから先も空と一緒にいたいと思ってる。……どうかずっと俺の傍にいてくれ」
そして空の薬指にはめた指輪にそっと口づけをした。
雪人は今までの恋愛で女性たちにせがまれて、プレゼントを贈ったことはあるが、指輪だけは贈ったことはない。
こんなふうにいつまでも一緒にいたいと願ったのも、独占し、束縛したいと思ったのも空が初めてだからだ。
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