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第57話

「俺の空になにしやがる……!」  その場に凛と響く声。  それは決して聞き違えることなどない雪人の声で。 「雪人っ!?」  空は涙をいっぱいに溜めた大きな目を見開く。  鋭い怒りのオーラをまとった雪人は、空の細い腕を乱暴につかむ男の手を捻り上げる。 「うあっ……」  男が苦痛の声を上げて空の腕を離すと雪人は自分の広い胸に空を抱きしめてくれた。 「雪っ……雪人っ……、怪我……怪我は……雪……」 「あ? なんか大丈夫みたい。血も止まったし」  腕の中で泣きじゃくりながら怪我の心配をする空に、雪人はあっけらかんと答える。 「ほ、本当に……?」 「ああ。心配しなくていいから」 「……雪人……雪人……」  抱きしめ合う恋人同士のあいだに不快な声が割って入る。 「てめぇ、しぶといじゃねぇか。地球人の分際で」 「そっちこそ、いい加減こいつに嫌われてること理解すれば?」  雪人が冷たく吐き捨てると、男は醜く顔を歪めて、雪人に殴りかかって来た。  さっきまで死の淵にいたとは思えない身軽な動作でそれをかわすと、振り返りざまに雪人は男の股間を長い脚で思い切り蹴り上げた。 「――――!!」  地球人の男と同じくエイリアンの急所もそこだったみたいで、声にならない悲鳴を上げて、男が後ろに退く。  雪人は男がダメージから立ち直る前に何度も攻撃を繰り返した。  しぶとい化物がとうとう床に倒れ込む。  雪人は男の顔を足で踏みつけると、自分が着ているシャツを引き裂き、太い腕と足を固く縛り付けた。

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