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不意打ちの告白に1
翌朝、目覚めると人型のアレクの姿はなく、代わりに犬のアレクが隣で丸くなっていた。それも、空哉にぴったりと寄り添っているのを見て、やはりあれはアレクだったのだと思う。
そして、確認するようにアレクの漆黒の背中に鼻を寄せると、男から漂ったのと同じ獣特有の匂いがした。
「アレク、どうしてお前は、寿命と引き換えにまでして……」
問いかけると、アレクが目を開けてくうーんと物悲しそうに鳴いた。流石に犬語は分からないが、何かを訴えかけるような目つきだ。堪らなくなってアレクの頭を抱き寄せようとしたが、アレクはすり抜けて、というより立ち上がって空哉の体に突進してきた。
「うわっ、ちょっと何」
そのまま前足を胸元に乗せながら伸し掛かってこられて、重心に耐えきれずに布団の上に仰向けに倒れ込んだ。そして何をするのかと思えば、一心不乱に顔を舐めたくった。
「わっぷ、ちょ、何、くすぐったい」
笑いながら、アレクを押しのけようとするが、一向に止めようとせず、徐々に顎のラインを辿っていく。
「アレク、待って。何をっ……」
次第に顎から首、鎖骨まで下っていく時には、それを予感して空哉は慌てた。
「待っ、昨夜もしたばっか……。それに、学校がっ」
アレクはやはり空哉の言うことは綺麗に無視して、言葉の意味は分かっているだろうに、ただの犬のふりをして、パジャマの中に顔を突っ込むと、胸の飾りをべろりと舐めた。
「っん……」
今さらながらに、可愛いからといってアレクの躾を怠ってきたことを悔いた。パジャマのボタンがはち切れそうになるのも構わずに、アレクは涎まみれになるほど立て続けに舐め続け、空哉も流されるようにして喘ぎ、乱れる。
「んっ、や、やぁ」
腰のあたりがむずむずとしてきて、胸への刺激だけで否応なしに兆し始めたのを知ると、羞恥で顔に熱が集中してくる。しかし、欲望には逆らえず、もっとその先を求めてしまいそうになり。
「アレク、もっと……」
思わず漏らした時だった。不意にアレクが動きを止めた。
「アレク……?」
膝を擦り付けながら名前を呼ぶと、アレクは空哉の上から降りた。何事かと思っていると、唐突にドアをノックされる。
「まだ寝てるの?遅刻するわよ」
母の声だ。慌てて乱れたパジャマを直し、返事をする。
「今行く」
アレクを見やると、伏せの状態でどこか残念そうに見つめていた。
いつも通りに登校し、いつも通りに授業を受けたのだが、気が付けばアレクのことを考えている。
寿命と引き換えに、新月の夜だけ人型になれるようになったというアレク。前々から、アレクはどこかただの犬とは違うような気がしていたので、最初に人型を見た時と比べて、案外すんなりとそれを受け入れ始めていた。
しかし、やはり気になるのは、寿命が残り僅かということだ。どうしてそこまでしてと思わなくはないが、空哉の前でだけその姿を取れるというのなら、当然、空哉のためにそうなったのだろう。そこに並々ならぬ決死の覚悟や思いが垣間見える気がして、嬉しさはもちろんあるが、残りの時間をどう過ごしていけばいいのかを考えると気が沈んだ。
そしてそれを考えると、学校の授業など放り出してアレクのそばにいたいとさえ思う。もともと、アレクのことは子犬の時から目に入れても痛くないほど可愛がってきたので、最近の求愛行動のようなものに関わらず、何よりも大切な存在なのだ。
仮病でも使って早退することを半ば本気に考えながら、のろのろと永遠に続くかと思われた授業からようやく解放されると、そのまま大急ぎて帰宅の準備に取りかかった。
「あれ、空哉はもう帰るのか」
「おう。ちょっと急いでるんだ。親に用事を頼まれてて。またな」
友人の一人が声をかけてくるが、適当に言い訳をして手を降り、駆け出す。アレクの尻尾を降って喜ぶ姿、そして何よりも元気な姿を確認しないと気が済まなかった。
家までの2、3キロの道のりを、自転車で競輪選手のように猛スピードで駆け抜け、僅か5分ほどで着いてしまった。自転車を横倒しにしそうな勢いで降りると、鍵をかけて庭を見る。家にいるとき、アレクは空哉のそばにいたがるので、空哉が家の中に入れば共に入り、出掛ける時は庭に出るのが常だ。
「アレク」
名前を呼ぶと、アレクが犬小屋から飛び出して駆け寄ってきた。尻尾をちぎれんばかりに降っている。そのことにほっとしながら、いつものように繋いでいる鎖を外してやり、家の中に誘導した。
両親は共働きで不在なのはもちろんのこと、兄も今日は大学の友人と飲みに行くとかで遅くなると言っていたことを思い出す。しばらくはアレクと二人(一人と一匹)だ。
しかし、あれだけアレクのことばかり考えていたとは言え、何をして過ごすべきか具体的な案はまだ見つかっていないことに気が付く。
「アレク、お前、残りの人生でやり残したことはないか?」
返事が返ってきたところで理解できないことは分かっているが、アレクと視線を合わせて聞いてみると、不意に制服のズボンを引っ張られた。
そしてどこかへ引っ張っていこうとしている。
「アレク?どこに行くんだ」
不思議に思いながらも、導かれるままに歩いて行くと。風呂場に辿り着いた。
「風呂場って……風呂に入りたいのか?」
アレクはわんと一つ吠えて、急かすようにより一層強くズボンを引っ張り。引きずり降ろそうとしてくる。
「そんな引っ張っても脱げないから。ベルトあるし。というか、まさかお前、一緒に入れと言うんじゃ……」
即座にもう一度、わんとアレクは返事をした。そして、くるくると空哉の周りを歩き回ったり、ズボンを引っ張ったりして早くしろと言わんばかりだ。
「仕方ないなあ。……てかお前、風呂とかこつけて変なことするなよ」
釘を刺したつもりだったが、アレクはこんな時に限って首を傾げて惚けている。恐らくそのつもり満々に違いない。真面目にやり残したことと聞いたのに、結局やりたいのはそういうこと一択なのかと呆れながらも、空哉の方も、今朝アレクに盛られてから熱を持て余していたのもまた事実だったので、それ以上文句は口にしなかった。
まず最初にズボンを脱ぎ捨てた。続いて上着を脱ぎ、カッターシャツに手を掛けたところで、下半身に違和感を覚えた。違和感というか、これは。
「っあ……やっ……」
待ちきれなくなったのか、アレクが下着の上からペニスを舌で舐め始めていた。
「やっ、待って、あう、……あ、あああっ」
一度始め出したら飽きるまで無我夢中で舐め続けてしまうことは十分知っていたが、下着の上からやられることはあまりない。下着がアレクの唾液と、空哉のペニスから溢れる蜜でぐしょぐしょに濡れていき、その気持ちの悪さとそれを超えるもどかしい感触に悶えてしまう。
それでもなんとか震える指を動かし、シャツを脱ごうと四苦八苦していると、アレクはその時には既にボクサーパンツの中に顔を突っ込み、直にペニスをしゃぶり始めていた。すっかりアレクの舌使いに慣らされ、いっそ虜になったと言っても過言ではない空哉のいちもつは、喜びに震え、むくむくと膨張してきている。
「アッれく、したぎ脱げない、っああ、やめっ」
下着の中に放ちそうになり、慌ててアレクから離れようとするが、案の定なかなか離そうとせず。ぐっしょり濡れそぼったカリをべろりと舐められた途端。
「っぁあああっ!……っ、イクっ!いっちゃうっ」
空哉の声と共に、勢いよく精液が解き放たれた。
「……はぁ、はあ……」
息を乱しながら我に返ると、生々しい白くぬめった液体が床に零れてしまっていた。溜息をついてしまいながらも、気持ちの悪い下着を脱ぎ捨て、洗濯機に放り込み、全裸で床の汚れを拭き取ろうと中腰に屈んだ。その体勢が悪かった。
「ひゃっ……」
アレクの顔の前に双臀を突き出すかたちになり、すかさずべろりと割れ目を舐められたのだ。思わず変な声を上げてしまい、振り返ってアレクをひと睨みする。
「アレク、お前な」
アレクはきょとんとした顔をして、可愛くくうんと鳴いた。
その後、アレクと共に入浴をすればまたやられるに違いないと考え、結局一人で入浴を済ませることに。その間、アレクがくんくん鳴きながらかりかりと風呂場の磨りガラスを引っ掻き続けていたが、無視し続けた。
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