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【5】-1
装飾の多い上着をハンガーにかけ、ひらひらしたブラウス姿で1Kのマンションの座布団に座る美形に、マグカップのココアを差し出した。
「粉のやつしかないんだけど、これでよかった……?」
コーヒーと紅茶と日本茶、どれがいいかと聞いた雫に、男は「ショコラはありますか」と聞いた。
ショコラ。
一瞬、呆気にとられたが、ココアなら粉のがあったと思い出し、お湯で溶かしたものを淹れて出した。
自分の分も作り、折り畳み式の座卓を挟んで向かい合った。
「美味しいです」
男は嬉しそうに笑った。キラキラと周囲の空気に光が弾けた。
事情を聞いていいのか、聞くとしたら何から聞けばいいのか悩んでいると、男のほうから口を開いた。
「私の名前は、ルイです。わけあって国を追われていますが、元はハイドランジア王国の王子でした」
ああ、と雫は遠い目になった。
やっぱり残念な人だった。
「あなたは?」
答えて大丈夫なものか迷ったが、青い瞳の美しさに魅入られて「四葩雫《よひらしずく》です」と素直に答えていた。
「雫……。美しい名前ですね。あなたにぴったりだ」
キラキラの笑顔で褒められて、じわりと頬が熱くなった。なんだか調子がおかしい。相手が美形すぎるのがいけないのか。
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