6 / 23

【4】-2

「あ……、あの……」  立派な衣装が濡れてしまうのが心配だった。  読み聞かせイベントで時々行われる寸劇の衣装でも、作るのはとても大変なのだ。まるで本物の王侯貴族のような、レースや金糸をふんだんに使った服には相当な手間とお金がかかっているはずだ。 「傘、貸します」  男は振り向き、青い目を瞠った。サファイアのような美しい瞳に、ドキリと心臓が跳ねた。 (綺麗な人なのに……)  なぜ、こんなにも激しく中二病を拗らせてしまったのか。かえすがえすも残念である。 「ありがとう……」  泣きそうな顔で礼を言う姿に、なぜか胸の芯がツンと痛んだ。  簡単に人を信用してはいけない。けれど、この人は大丈夫なのではないかと、吸い込まれそうな綺麗な目を見ているうちに思ってしまった。 「あの……、よかったら、コーヒーでも、飲んでいきますか?」  思わず声をかけていた。 「え……」 「震えてますし……、寒いんじゃないかと思って……」  男の顔がふいに歪んだ。美しい顔にはらはらと涙が流れ落ちた。  やっぱりヤバイ人だったかもしれない。  瞬時に後悔が湧き上がり、誘いを取り下げようかと口を開きかけた時、男はこの世のものとは思えないほど美しい笑顔を見せた。 「ありがとうございます。本当に、ありがとう……」  何度も何度も礼を言い、泣きながら笑う。  着ているものはやたらと豪華なコスプレで、言うことはどうにも謎だが、ただの変質者ではないような気がした。  いったいどんな事情があるのか、気になった。

ともだちにシェアしよう!