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【4】-1

 閉店作業を終えると、店長からの食事の誘いを,いつも通りさっくり断って家路についた。  外廊下の手摺に置いたキュウリはなくなっていた。  ドアの鍵を開けていると、「あの……」と背後から声を掛けられた。  振り向くと、まばゆい衣装に身を包んだ嘘のように美しい男が立っていた。 「昨日の、変質者……!」  咄嗟に身構えた雫に、美形男がキュウリを差し出した。怖い。 「お礼です」  変態美形男が言った。 「昨日、助けていただいた、お礼」 「あなたを助けた記憶が、ありません」  美形男はしゅんとうつむいた。  背は高く、肩幅は広く、それでいて全体的にすっきりとした細身の体形はかっこいい。金色の長い髪に包まれた顔は甘く整い、お伽噺の王子様そのものだ。実に美しい。  どう見ても西洋人にしか見えないが、言葉は流暢な日本語だった。  こんなに完璧な容姿をしているのに、なぜ残念なコスプレに身を包んでいるのだろう。もったいない。  男は黙って、キュウリを二本雫の手に握らせた。  そして、くるりと背を向け、悲しそうに立ち去ろうとする。階段を降りる後ろ姿を見ているうちに、傘を持っていないことに気づいた。

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