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【5】-2
「ええと……。その、ハイドランジア王国には、もう帰れないんですか」
そろそろ家に帰ってもらおうと思い、聞いてみた。
ルイは神妙に頷いた。魔女に魔法をかけられて、それを解くまでは帰れないのだと答えた。
ベタである。あまりにもベタである。
けれど、にもかかわらずというか、だからこそというか、ルイの言葉には妙な説得力があった。なんというか、作り事にしては手が込み過ぎているのだ。衣装といい容姿といい、一貫性がありすぎる。
「その魔法は、どうすれば解けるんですか」
「それを、人に言うことはできません」
ですよねぇ、と心の中で苦笑した。王道のお約束だ。
信じる? 信じない?
雫自身が問いかける。
小さな本屋を営んでいた両親の姿を思い出していた。
今は生まれ故郷の山梨に帰って桃の栽培に従事しているが、幼い頃にはずいぶんたくさんの本を雫に読み聞かせてくれた。
本当のことは、自分の心の目で見て知るのだと、言葉ではない何かで教えてくれたように思う。
目の前にいるルイという名の御伽の国の王子様。キラキラの美しい顔で、森○ミルクココアを優美な仕草で飲んでいる。彼の言葉に嘘があるとしたら、逆に真実とはどんな姿をしているのだろうと思った。
この男に騙されて、雫が失うものがあるだろうかと考えた。
きっとそんなにない気がした。ルイからは悪意がみじんも感じられなかった。
嘘なら嘘でもいいではないか。最悪、わずかな貯金をだまし取られたところで、命までは奪われないだろう。
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