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【9】-1
雫を抱きしめたまま、ルイが話し始めた。
呪いは、ずいぶんと遠い昔にかけられたものだという。王子という立場と圧倒的な美貌を誇っていたルイは、それを笠に着て、愚かなほど驕り高ぶり、傲慢で、我儘だった。そして、放蕩の限りを尽くしていた。
そんなルイを戒めるために魔女がかけたものだった。
「お伽噺にありがちな設定すぎて、恐縮なんだけど」
「うん。わりと今さらだから、気にしないで」
魔女の心を弄んだせいで相当な恨みを買ってしまった。心だけではなく、いろいろあったというから、一般のお伽噺よりアダルトテイストだったのかもしれない。
「雨の間だけ人の姿になれる。それ以外は醜いウシガエル。人の姿でいる間に運命の相手に出会い、本当に愛されなければ、呪いは解けない……。とてもオーソドックスな魔法だけど、解くのは難しかった……」
最初のうちは簡単に考えていた。人の姿でルイが口説けば、たいていの者が恋に落ちた。けれど、ウシガエルになったルイを見ても愛してくれる者は一人もいなかった。
やがて時代が進むと、誰もルイの話を信じなくなった。ルイを知っている者はいなくなり、それから先も何百年もの間、呪いを受けたまま生きてきたのだと聞いて、雫は胸が苦しくなった。
梅雨という名の雨の季節があると聞き、はるばる日本までやってきた。それからどれだけの年月が流れたかわからないという。雨が降る日を待って、運命の相手を探し続けた。
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