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【6】-3

 何を勝手に話を進めているのだ。雫が間に入ろうとすると、ルイがずいっと前に出た。 「店長さんは、雫とはどんなご関係ですか」 「僕は、四葩くんに惚れている。将来は結婚したいと思って……」 「無理です。何を言ってるんですか」  問答無用で割って入った。  だいたい長身の男がふたりもいると、1Kの部屋が狭すぎる。店長のスラックスのベルトを掴み、後ろ向きに引きずってドアを開け、外に放り出した。 「四葩くん!」 「ちゃんと話し合いますから、今日は帰ってください」  ドアを閉め、ガードをかける。まだ何か喚いている声が聞こえたが無視した。 「雫……、話し合うって……」  ルイが不安そうに聞いた。 「あ。言葉のアヤだよ。なんでもない」  答えながら、けれど、このままルイをここに置いておくことは、自分の将来に悪い影響を与えるのではないかと、小さな打算が、一瞬、胸をよぎった。  ルイは、いつまでここにいるのだろうかと考える自分に、後ろめたい、嫌な気持ちになった。そこにかすかな切なさが混じった。 『いつまでここにいるんだ』  店を畳む直前に父と母が地主から言われた言葉。居場所を奪われる悲しみが、胸の奥から湧き上がり、心を重くした。 「ルイ、ごめんね」 「謝らないで。雫は何も悪くない」  悪くない。そうルイは繰り返し言い、「ありがとう」と微笑んだ。

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