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【9】-3

(まあ、いいか……)  雫もいい思いをしたのだ。あんなに気持ちのいいことをされて、怒る道理はないだろう。  ルイの経験が豊富な点は面白くないが、またしてもいいなと、素直に思っていた。 「あ、でも……」  ふと、心配になった。 「ルイは、ハイドランジア王国に帰っちゃうの?」  お伽噺の中の国へ。雫はそこに行けるのだろうか。  けれど、ルイは首を振った。少し寂しそうに、国はとうの昔になくなってしまったと言った。長い呪いの間に、ルイだけが生き延びてしまったのだと。 「僕は、ひとりぼっちになってしまったんだ」  また泣きそうになる麗しの王子を、雫はぎゅっと抱きしめた。 「僕がいるよ」  金色の髪をゆっくりと撫で、自分が守ると約束した。 「元の世界に戻れなくても、新しい世界できっとやっていける。大丈夫だからね」  今の日本で生きてゆくには、戸籍などをはじめ、さまざまな問題があるだろうが、カエルの姿に変えられたことに比べたら、どんな問題もさほど大きなものではない気がした。  何かと役に立ちそうな人材もいるしと、店長の顔を思い浮かべ、雫はもう一度深く頷いた。 「きっと、大丈夫だ」  起き上がり、服を着て眼鏡をかけた。  実家から送られてきた桃を剥いてルイに手渡しながら、こんなふうに……、と思う。  本が大好きで、それでも世の中の流れに抗えず、大切な書店を畳んだ両親を思う。その二人も、今はこうして美味しい桃を作ることで、糧と生きがいとを得ている。幸せに暮らしている。  新しい世界を見つけるのは楽ではないけれど、きっと見つけることはできる。

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