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第3話

少し目を放すと、すぐに俺の元から逃げようとする優希。 だから、俺が出かける時は手足を縛らなければならない。 そうしないと、安心して出かける事ができない。 何故、そうまでして兄貴の元へ戻りたがるのか…。 まさか、兄貴の所に居る間に心まで兄貴の…。 いや、まさか。 頭の中に浮かんだ嫌な考えを、俺はすぐに打ち消す。 そんな事、あるはずがない。 兄貴は優紀を玩具としてしか見てなかったはずだ。 優紀を拐った時だって…優紀は、皆の前で見世物になっていた。 玩具として扱われていた優紀が兄貴を…なんて、そんな事、あるはずがない。 あってたまるか。 第一。 優紀は俺を好きなはずだ。 昔から…。 …今だって…。 ―失って初めて大切な存在に気付く。 優紀は俺にとって、まさにそんな存在だった。 雅樹に囚われていた間、どれほど後悔したか…。 あの雨の日、振り返らずに立ち去ろうとしていた優紀の手を取り、引き留めていたら。 何度、そう考えた事か…。 ……………だが。 もう一度、やり直すんだ。 もしも今、優紀の心に兄貴がいたとしても…。 取り戻す。 絶対。 取り戻してみせる。 そう、思っていたのに―。

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