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ネコ-7-
散々走り回り腹が減った俺は白神 と一緒に、目の前のファミレスに入る事にした。
小さい形 で一体何処にそれだけの量が入るんだと聞きたくなるくらい大食いの白神は、セットメニューと単品でカツ丼とハンバーグそしてサラダを注文し、俺は普通にステーキセットを頼んだ。
食い物が運ばれてくるまでの時間をドリンクバーで注いで来た飲み物を飲みながら潰す。
「悪かったな付き合わせて」
「別に暇だったからいいよ」
「でも、あれだろ。相手を探しに行っていたんじゃないのか?」
ゴフッ! と白神が飲んでいたジンジャーエールを喉に詰まらせた。
「大丈夫か?」
「へっ、平気」
テーブルの隅に置かれたナプキンを手に取り、忙しなく口元を拭いながら弁明する。
「別に相手を探しに行っていたとかじゃないから。大学の友達 が興味あるけど一人で行くの怖いから付き合ってくれって言われて、それで行っただけだから」
「友達放ってきて良かったのか?」
「ああ、入って直ぐに人酔いしたとかでそいつ帰っちゃったんだよ。俺はお前の友達を見かけて残ってただけだから」
「ふーん。そうか」
「そうそう」
「で、お前はゲイなのか?」
んな訳ねーだろ。単なる社会科見学だっつーの。
などと適当に誤魔化せない素直すぎる白神は言葉に詰まり、黒目がちなクリッとした大きな目を泳がせている。
顔を引き攣らせながら笑い。
「何つーか、その…アレだ……」
必死に言葉を探すものの、大切な人間に嘘を吐く事を良しとしない白神は結局「ごめん」と小さく謝った。
「謝る事ねーだろ。別にお前がゲイでもバイでも関係ないし」
「……そうなの?」
「お前が俺に気があるって言うなら当事者になるから考えるけど、違うだろ?」
「うん」
「なら、俺が考える事なんかねーし……」
個人の嗜好に口出す趣味はないと続けようとしたところで、ウェイターが料理を運んで来た。
テーブルに置かれた唐揚セットの匂いに食欲を押さえられなくなったのか、白神は話を中断し、掻き込む様に食べ始めた。
何時見ても良い食いっぷりだ。
そんな白神に続くように、俺も目の前のステーキセットを食べる。
猛烈な勢いで食べる白神は俺がセットを半分食べたところで二品目のカツ丼に手を伸ばした。
セットを食べ終わり腹が落ち着いたのか、食べるペースを落とし、話し掛けて来た。
「志波って奴は恭路 の事、好きって言って来たの?」
「いや、言われてないけど」
「そうなの? 本当に?」
疑わしげな顔で見詰める白神。
「マジで言われてねーから」
それ以前に、志波が俺を恋愛対象として好きってねーから。
中学時代は変な距離感が常にあったし、卒業後は俺の存在を忘れたかのように一切の連絡はなかったし、数年振りに再会して連絡先を渡してもやっぱり連絡はないし。
「それなのに考えてあげているんだ」
「へっ? いや、考えるつーか……」
再会が再会だったから、心配つーか。
放っておけないって言うか。
「恭路 さ。例えばだけど、俺が男にケツ撫でられているの目撃したらどうする?」
「は? 何だよそのどうでもいい質問は」
「いいから想像しろって」
テーブル下で白神 につま先で脛を小突かれ、渋々そのシーンを想像する。
……。
…………。
………………。
白神の見かけに騙され、手を出したバカの末路が容易に想像でき、思わず噴出す。
「何つーか。笑うわ」
想像力をフルに働かせてみた結果。出た答えを告げると白神はカツ丼を頬張りながら、笑みを浮かべた。
「だよな。俺も恭路が男にケツ撫でられているのを見たら、爆笑する」
まぁ、うん。
お前の事だから『恭路だっせー』て、腹抱えて笑うよな。
「で?」
「うん?」
「質問の真意は何だよ」
「真意? 無いよそんなの」
「は?」
「ただ訊いただけ」
なんじゃそりゃあ。
意味分かんねーな。オイ。
白神の思考がずれているのは何時もの事だ。
流しておこう。
意味不明な質問をそのままに俺たちは飯を再開し、他愛も無い会話を続けた。
飯も終わり、白神とファミレスで別れると、そのまま駅へ向かった。
ネオンの光で霞む星空を見上げ白い息を吐く。
志波はまだこの街の何処かにいるのだろうか?
ネットカフェでもビジネスホテルでも何でもいい。
何処か安全な場所で大人しくしていればいいが、もしも店を替え、そこでまた変なのに捕まっていたら。
そう考えるとむかっ腹が立つ。
つい数日前に痛い目に遭ったばかりだというのに。
襲われた恐怖から、震えながら泣いていたというのに。
何を考えているんだ。
クソッ!
ポケットから携帯を取り出して着信の有無を確認する。
何時もなら一件位は届く志波目撃情報が一切無いのを見て、大きな溜息を吐き、携帯を戻す。
二十歳を越えた人間の行動と結果は本人の責任だ。
俺には一切関係ない。
そう頭では分かっている。
だが、不器用な友達が痛い目に遭っていないようにと。
何処かで泣いていないようにと、願わずにはいられない俺だった。
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