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出会い(2)
この子はママと召使いの老婆と
この森の中の塔に3人暮らしらしい
時々父親が訪れる以外に訪問客はなく、そういうときは必ず屋敷から外に出され夕刻の鐘が鳴るまで帰ってはいけないのだという
(こんなに幼い子供なのに…)
かわいそうに思い頭をなでると、またこぼれんばかりの天使の笑顔である
母親の病のことを聞くと要領を得ないながらも、魂がこの世とは離れた遠くに行ってしまっているとのこと
生活に支障は無いようだが子供の衣服を見ても そこそこの地方領主の子ではあろうことが見て取れたので
母親の治療にボクがどうこう口を出す問題ではないと判断した
それからボクはちょくちょくこの森を訪れ(侍従には金を握らせ森の外で待たせている)
フェルと楽しい時間をすごした
「ねぇねぇジェイもっと教えて!」
ボクは本名を教えるわけにもいかずジェイとだけ名乗っていた
子供は外界と接触したことがないまるで森の妖精のようだった
自分の名も知らないこの子をアンジュ と呼ぶことにした
ボクが教える遊びや遠い国の話に興味津々で
帰る時間になると涙を浮かべながらもニッコリと微笑み「またね」と言う
連れて帰りたい衝動を抑え週に1~2度 たわいない話をしたり遊んだりしていた
半年もたったある日
とうとう抜け出して一人で行動していることが侍従長にバレで侍従は免職
ボクは外出禁止となってしまった
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粉雪がフワフワと降り注ぐその丘には両手を高く上げ一心に祈るフェルの姿があった
ジェイが来なくなって1ヶ月ほどフェルは毎日毎日ここで祈っていた
「ママをなおしてください ジェイにまたあわせてください」
羊毛でできたフード付きマントを着ているとはいえ冬の森の中はシンシンと冷え込んでいた
一心に祈るフェルの手をギュッと握る手にハッとし見上げたら
そこには召使いの老婆の姿があった
「もう戻りますよ」
感情のない声でそういい連れ帰られる毎日
あきらめられずに毎日丘に通い続けたある日
丘の上のいつも二人で腰掛けていた木の切り株の上に乳白色の石のネックレスと手紙がそっと置いてあった
手紙をそっと開いてみるとフェルにも理解できる優しい言葉で
『ジェイはもう来られなくなったこと
一緒に過ごせた時間は1番幸せだったと
そしていつかまた会えるようにお揃いのこのネックレスを身につけていよう』
と書いてあった
もう会えないという胸を締め付ける現実と
握っている石が自身の体温のためか暖かく感じられ
ジェイに抱きしめられたような気がして
またいつか会えるためにとの言葉をかみしめ空を仰いだ
これがフェルが今までで1番幸せであった頃の記憶である
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