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大事な石(1)
フェルの拘束を解き、汚した体をシーツで乱雑に拭き
衣服を着せ口止めをして部屋から出した。
カーティスはベッドに横になりながら先程の行為を思い出した。
(ヤバイな…初体験のときでさえあんなに興奮しなかったぞ)
あっという間に果ててしまった驚きと
過去味わったことのないほどの快感に身震いする。
あの怯えた瞳が涙の向こうでユラユラキラキラと
自分を見つめるだけでイッてしまいそうになるほど興奮した。
ムクムクと再び自身が起き上がりそうになるのを沈めながら
ふと視線を床に落とすとそこには先程フェルからはずした石のネックレスが落ちていた。
粗末なその石は革の紐でゆわえられた乳白色のツルンとしたもので
高価なものとは思えない。
(母親の遺品か…?)
そう考えながら
(だとしたら取り返しにまた来るだろう)
と歪んだ笑みを零さずにはいられなかった。
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ヨタヨタと自分の部屋に戻ったフェルは急いで服を全部脱ぎ
続き間になっている洗面所に向かいタオルを濡らし全身をぬぐった。
背中を鏡で見ると出血は止まっていたがタオルでふくとピリリと痛みが走った。
「っつ……」
冷たい水が心地よく、カーティスがふれた場所すべてを清めるかのように拭きながら
再び鏡を見てようやく気づいた。
(…!!ない!?)
首をまさぐるがそこにはいつもあるはずのものがない
あわてて脱いだ衣服をひっくりがえすがどこにもない
真っ青になりながら必死で考えるがはずした記憶がない
となるとやはり……
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トントン
先程の行為を思い出すと恐怖で足がすくむが
何をされようともあの大事な石だけは取り返さなければと意を決してカーティスの部屋をノックした
しかし返事はない
ドアを押してみるとキィ…と開いた
夕刻に近くなった薄暗い部屋の中をキョロキョロと見回すが誰もいない。
ベッドの下やリネンの中をくまなく探るがどこにもない
焦りとなくしたのではないかという不安が襲い冷や汗が出てくる
ベッドから降り立つと
カーテンの影からヌッと人影が出てきて後ろから羽交い締めにされた
「ひぃあっ…!!」
心臓が飛び出るほど驚いた
「泥棒猫が迷い込んできたようだ」
耳元でそうささやく
声だけで誰かわかったフェルは
「っ…いし! わすれ…いしをかえしてくださいっ!」と吐き出すように言った
左手で後ろから抱きしめながらフェルの香りを嗅ぎ
カーティスは右手でブランと革紐のネックレスをフェルの眼の前に出した。
大事な石を目にしてフェルはホッとして右手を伸ばすが
いきなり後ろから突き飛ばされベッドに倒れ込む
振り返る間もなく膝で背中を抑え込まれる
「っいったぁ…ぁ…!」
背中に強烈な痛みが走り涙が滲むが必死で耐える
(石を…取り返さないと)
「ふぅん そんなに大事?またあんなことされるかもしれないのに来るなんて」
コクコクとうなずくフェルの耳元に口をよせペロリとなめあげながら
「それとも またやってほしくて来たとか…?」
クックッ…と低い笑いをこらえるカーティスを青ざめた顔で見つめ
ブンブンと首を左右にふるフェル
「かえ…して! だいじなの…ボクのいしっ…!!」
おさえつけられながらも必死で右手を伸ばすフェルに
「返してあげなくもないよ だけどね報酬が必要だな」とカーティスは言った。
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その日の夜
フェルは一人シンと静まり返った屋敷の廊下を歩いていた
暗くて怖いが勇気を振り絞り地下への階段を降りていた。
この屋敷に来て半月がたつが屋敷から外へ出たことがない。
たまに与えられる粗末な食事をし図書室の本を読むだけの毎日
部屋の移動も最小限にし目立たないように息を殺して生活していた
地下への階段が永遠に続くかと思われた頃ようやく最下層についたようだ
そこには重厚な扉が有りフェルの体格では開けるのに苦労した。
(3日の我慢…)
そう自分に言い聞かせながら部屋の中に足を踏み入れる。
地下のカビたような冷たい嫌な空気を吸い込みながら見渡すと
ガランとした大きな部屋に大きな机と椅子
部屋の隅には古びた大きなソファがありそこにカーティスが座っていた。
「いしは…?」
フェルが問いかけると
「安心しろちゃんとしまってある」
とニヤニヤしながら答えるカーティスの残忍な笑みに身震いするフェル
手招きされカーティスの前まで進むと
「オレはあと3日で学院に戻る。それまでお前が良い子で言うことを聞いていれば石は返してやる」
<言うこと>とは 昼にされたああいうことなんだろうと思いつつ
従うしかないフェルはコックリとうなづいた
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