23 / 141

天使の歌 (3)

真っ赤に腫れた頬を抑え廊下の隅で怯える子供の前には 怒りに満ちた婦人とその後ろに控える執事がいた 「ご…め…なさっ…」 左右色の違う美しい瞳に涙をいっぱいにためたフェルは 何を怒られているのかわからず謝っていた 上等な真っ白の絹のブラウスに膝下までの黒いズボンを紫色のサッシュベルトで締めた優雅な装いの 小さな子供を見下ろすのは目をつりあげ怒りを滲ませる高貴な伯爵夫人は再びその手を振り下ろした パシィイイイインッ!! グラリと崩折れそうになる体を懸命にこらえ腕を後ろに組み 真っ赤に腫れた両頬を隠しもせず目を瞑り婦人の方に向き直る もう一度打たれることがわかっているかのように その間にあわてて割り込む執事 「申し訳ございません お早いお帰りを気づきませず…勉学をさせ自室に戻らせるところでございました」 と腰を曲げ謝罪をする 「いつまでこの屋敷に置いておくのですか!汚らわしい」 奥歯をかみしめ憤怒の瞳で射抜くかのように見つめる 執事を押しのけフェルを廊下の隅の壁に追い詰める婦人 中腰になりフェルの視線と目の高さを合わせる 「その瞳!悪魔の下僕のように人々を惑わすその瞳を…」 「くりぬいてやりたい…」 (あぁ…この人も同じ瞳をしてる……) パシィイイイインッ!! 痛みに過去夢から現実に引き戻される 何度も平手で殴られ かけていた眼鏡が飛んでいった 殴っている美少年のほうがハァハァと息を切らせている 「ボクの独唱を邪魔するなんていい度胸じゃない」 ハイソプラノの美しい声で凄む少年 「ごめんなさい…」 無意識にとはいえ聖歌隊の邪魔をしたのは事実なので抵抗もせず謝罪を続ける (メガネ…あれがないと 悪魔の瞳を見られてしまう…!) メガネを失ったことで瞳を見られるかもという恐怖で顔をあげることができない うつむいたままのフェルに 「それが謝罪する態度なの?!ちゃんと顔を見せて目を見て謝れよ!!」 「はいはい そーこまで」 つかみかかろうとする美少年の腕を掴み立つのは銀髪の美貌の副会長だった

ともだちにシェアしよう!