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アークライト (1)
フェルを猛獣たちから守ろうと思ったのはジュリアスのためだった
普段ならそのような些末なことに心を砕いたりしないアークライトだったが
物心ついた頃からの幼馴染のこの冷徹無表情な王子が感情を顕にしたあの時
まだその感情の中身をジュリアス自身が気づいていないとしても
いつか気づくその時のために
なんとしてもこの無垢な天使を綺麗なまま保存しなければ…と思ったのだ
Petit frèreにしてから毎週水曜日の放課後に生徒会室でおしゃべりをする
呼んでもいないのに仕事もない時でさえ必ず同席していたジュリアス
フェルと話すたわいない話を
聞いていない風を装いながら耳を立てているのを見ると
笑いがこみ上げてきて押さえるのに苦労した
「お茶のおかわりはいかが?」
極上の笑みをフェルに向けるアークライトに
耳を真っ赤にし俯くフェル
その様子を(無意識だろうが)鬼のような目つきで睨みつけている親友を見て
『早く自分の気持ちに気づけよな…』と呆れ呟く
フェルもジュリアスのことを気にしているようで
アークライトと向き合って話をしているのに
コッソリとジュリアスのほうを盗み見たりしている
フェルの安全を思えば
早くアークライトのPetit frèreだと公言したほうがいいのはわかっている
わかっているが…
ジュリアスが自分の気持ちに気づき
王子という枷をはねのけてフェルをPetit frèreにするのを待っていた
そうこうしているうちに
デレックが襲った
『フェルをオレのPetit frèreだと公言するから!文句は言わせない!!』
そう言った時のあいつの顔…
未だかつて見たことがない
諦めと後悔が入り混じった苦しげな表情だった
学園に激震が走った
「副会長が!?あの男色嫌いの!!?」
「Petit frèreだって!」
「マジでええええええ!?あのちっこい1年生かよ!」
食堂棟中の視線を一身に浴び
騒然とする中 仲間たちと昼食をとるフェル
いつも以上に体を小さくして目立たないようにしようとするが無駄である
ネヴィルとその仲間たちが囲むように守るフェルの襟元には
Petit frèreの証であるアークライトのラ・フォートリエ公爵家の
紋章のブローチが光り輝いていた
「なんであんな冴えないのが…」
「うそだろ…ずっと憧れてたのに」
悪意に満ちた言葉が突き刺さり
食事どころではないフェル
Petit frèreになるということが
こんなことになるなんて思いもしなかった
大勢の悪意に晒され恐怖しかなかった
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