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懺悔 (2)

アークライトに連れられて行く懺悔室への訪問は 水曜と土曜日の夜に決まっていた 「告白なさい 神は全て見ておられます」 木椅子に腰掛けずに床に膝を付き両手を合わせ 祈るような姿勢で木窓に向かうフェル 今日までにも様々な悩みを 顔も見たこともないこの司教に相談してきた 返答は毎回 「悔い改めの祈りをしましょう」 「自分を責めずに祈りましょう」 「神は全ての子らを愛しておられます 祈りなさい」 などという内容だったが そのたびにフェルはスーッと心が洗われるようだった ****************************** 「かみさまは本当におられるんでしょうか?」 「目には見えませんが皆の心の中におられます」 「ボク毎日お祈りしてましたが現れてはくださいませんでした」 ーーママの病気を治してくださいーー 「逃れられない運命というものがあります   それは神にも変えることはできません」 ーーシグにもう一度あわせてくださいーー 「時が来れば いずれ会えるでしょう」  叶うはずもない願い ********************************* 今日のフェルはいつもにも増して青ざめた表情で とても言いにくそうに告白した 「朝 起きたら…あの…」 「どうしました?」 「こっ…ここに…」 言いよどみながら股間を指差す 「にぃさまが ボクにかけたような物が…」 「??」 フェルの告白は過去にカーティスに受けた性虐待とともに 自分が朝起きるとたまにだが カーティスが放ったようなものが下着の中にあるのだというものだった 青ざめ木窓を見つめるフェルの両目から涙があふれそうだった (嫌じゃないんだよ   くわえさせてやるって言ってるんだありがたく口を開けったら) (っやぁ…だ…はぁっ!…やめ…っ) (騒ぐな 騒いだらもっとひどくするぞ) (っふぁ…っ…ぁあ…) 驚愕の告白にジュリアスは絶句した そのような性虐待をこの清らかな天使に… 言葉も出てこないジュリアスにフェルが続ける 「にぃさまが 夢だけじゃなく 現実にボクの部屋に来てるんじゃないかなって」 「司教様はこの学園の中は安全だとおっしゃってますしカギもかけてる  ネヴィルも一緒の部屋にいるのに…」 美しい瞳から溢れた涙が頬を伝う 『それは自分の…夢精…ってやつじゃ』 なんて言えるはずもなく頭を抱えるジュリアスだった 「どうしたらいいと思う?」 真剣な眼差しでアークライトに問う 「そりゃただの夢精だよって言えばいいんじゃ?」 わざとぶっきらぼうに放り出すように言う 「うーーーーん……」 親友の挑発にも気づかず悩むジュリアスがおかしくてたまらない フェルの告白の数々は 高貴な生まれのこの二人には信じがたいような壮絶なものだった そんな過去がありながらも 清らかで健気で必死に乗り越えようとしているフェルを アークライトもジュリアスも 守りたいと強く思うようになっていた 「ようやく最近眠れるようになってきたって…言ってたのにな」 「兄 鬼畜すぎだろ…何歳の時だよ」 「それが資料によると街の商家の一人息子ってなってて      兄なんていないし 養子に出されたのかねぇ」 「そんなとこだろな」 壮絶なフェルのこれまでの人生を日々知っていき その心の錘の大きさを実感し無力さに辟易する 「で…どうする?オレかお前か…」 「お前のPetit frèreだろ」 「そうだが…いいのか…?」 グッと言葉に詰まる親友の肩を拳で強く叩き 「そろそろ素直になれよ…ほんっと!」 呆れたように しかし極上の笑顔で微笑むアークライトだった

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