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夏季休暇 (3)

ここにいる間 お手伝いできることは精一杯しようと決めていたフェルは 身重のネヴィ母について洗濯干しを手伝っていた シャボンのいい匂いのするたくさんのシーツが夏の風にはためいている 農家だが土地持ちで使用人も多数雇っているネヴィルの家なのに 家事は全部このネヴィ母がとりしきっていた そんなところもこの家の温かさの一因なのだろう 「あ…」 ネヴィ母がお腹を擦った 「ふふ…今蹴ったよこの子」 「ほら触ってごらん」 洗濯を干し終えたフェルが オズオズとお腹に手をのばす しばらくするとポコンっとフェルの手を蹴る感触がし 見た目にもフェル母のお腹がグニャっとするのがわかった 「けった…」 ボクの手を蹴った このお腹の中で新しいとうもろこし頭の赤ちゃんが生きてるんだ… 「また幸せが1つ増えるわー どんどん幸せになって困っちゃう」 フフフとちっとも困ってなさそうに笑う その様子を見てフェルは自分の母のことを想う 塔に閉じ込められ 意識がハッキリせず夢の中にいるような母だったが ママもボクが生まれて幸せになれたのかな…? 頭にフラッシュバックするの伯爵夫人の歪んだ顔 『お前なんか生まれてこなければよかったのに』 またポコンと手を蹴られる感触がした 「………生まれてきたいのかな?」 変なことを言っちゃったボクの頭を 妊娠していつも以上に豊かになったネヴィ母の胸が優しく抱きしめてくれた 「生まれてきたいと思ってるのかな…」 自分でも何が言いたいのかわからずに紡ぐ言葉を 何も言わずに頭を頬を撫でてくれる 温かい… いい匂いがする 生まれてきて嬉しいこともたくさんあったけど ツライこともいっぱいあった 『死ねばいいのに』 ボクが生まれたせいで義母様は不幸になったの…? 「…ボク生まれてきて良かったのかな…」 「フェル坊や…」 ボクの両頬に手を添え諭すように言う 「生まれてきちゃいけない命なんてないんだよ」 お腹を見下ろした後 傍らでスヤスヤと眠るジェイミーの髪を撫でながらネヴィ母は言う 「生まれてから死ぬまでなんて一瞬なのさ」 「今日もみんなとご飯食べれて楽しかったね」 「今日も抱かれた腕は温かかったね」  「今日1日もたくさん幸せだったね」 「フェルに会えたことで私は今日幸せなんだよ? うれしいよ?」 「『生まれてきてよかったのかな』なんて悲しいこと言わないでおくれ」 優しい瞳が悲しみを湛えている(たた    ) ママも…? ママもボクがいて幸せだったのかな きっと そうなんだ ボクも幸せだった ママがいなくなって悲しい苦しい でも今ボクは幸せだ ネヴィルやその家族の愛に包まれて こんな変なことを言うボクに ほしかった言葉をくれた 『生まれてきちゃいけない命なんてないんだよ』 「…っごめん…なさ…っ」 お腹に負担をかけないようにフワリと抱きつき ボクは声を上げて泣いた

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