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宣戦布告 (1)
*********ジュリアス視点********
夏季休暇がこんなに長いなんて思ったのは初めてだ
王宮に戻り 連日の公務やパーティ三昧
去年まではそれも楽しかったのに…
オレは今夜も公務のなんとかチャリティの表彰式後のパーティ会場で
顔もよくわからない女たちに囲まれて愛想を振りまく
横から執事がどこの誰かをコッソリ告げてくるが興味がないので記憶にも残らない
そんな輪を抜け出し
ついてこようとする執事たちを遠ざけ庭に降りる
パーティの喧騒が遠ざかるころ美しい白い薔薇が目に入る
大輪ではなく小さな花をたくさんつけるタイプのその薔薇は可憐で
あの子を思い起こさせる
(あぁ…早く学院に戻りたい)
タキシードの胸ポケットに忍ばせていたサシェを取り出し
両手の手のひらに乗せ月に掲げると
フワリと良い香りがして切なくなる
いつからだろう
こんなにもあの子のことしか考えなくなったのは
アークライトが生徒会室で眠るあの子の髪をかきあげたあの時
―――アンジュ だ―――
そうオレは直感した
アークライトがPetit frèreにするといった
本当は嫌だった
オレがなりたかった
でもそう言う勇気がなかった
幼い頃から立派な父王に憧れ
優秀な兄弟に負けまいと勉学に励んできた
尊敬される人間になるため自分を律して過ごしていた
このまま大学へと進み海外留学を経て
どこかの令嬢と結婚して子を為し
国の中枢の仕事をし…
そんな未来を思い描いていたオレには
この学院のPetit frère制度などバカバカしい戯言だった
―――それでも…オレはなりたいと思ってしまった―――
あの子の特別な存在になり
いつもオレにだけ微笑んでほしい
いつしかアークライトに向けられる視線の全てを自分のものにしたくなっていた
アークライトとのおしゃべりを生徒会室ですると知り
用もないのに仕事をするフリをして同じ部屋に居座って
一緒の空間で同じ空気を吸う
その日聞いた話の内容を
何度も何度も思い出しては心が暖かくなった後
虚しくなる…
アークライトのPetit frèreになったんだから
オレの出番なんてないのに―
手のひらのサシェ
黒い糸で【J】と刺繍されたコレは
オレがあのジェイであると思ってのことなのか
ただ単にジュリアスの頭文字なのかはわからない
いっそオレがジェイだと言ってしまえば
今からでもオレだけのものにならないかな……
なんて馬鹿げたことを考えてしまう
フッと自嘲の笑みを漏らした時
月の明かりの方から声がかかる
「持ち歩くなんてお前らしくないな」
チッ…よりによってこいつに見られるとは
皮肉な笑みを浮かべながら
従兄弟で親友の銀髪野郎が
ワイン片手に月の光を浴びて佇んでいた
あわててサシェを胸ポケットにしまうが手遅れだ
「お前も来てたのかよ」
「ああ 主催者が母の友人だから仕方なくな」
フン…
バツが悪いので早々に立ち去ろうとするオレの背中に
「あーそうそう
夏季休暇が明けたらさー」
引き止めるかのように話を続ける
こいつの意地の悪さは昔から変わらない
「オレのものにしちゃっていいよね…?」
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