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降誕のファザード【5】アークライト視点

***アークライト視点*** オレには全てお見通しだ 昨日のフェルの様子からすると乱暴を働かれた様子はなかったが 上気する頬とつややかなピンクの唇は艶かしく 幸せそうなその微笑みであそこで誰が何をしたのかを察した あの後ヤツの部屋のドアを何度も殴ったが出てこない あまりに殴り続けたので何事かと使用人が現れて あいつは王宮に帰ったと告げてきた 帰った…だと…? その使用人によると ジュリアスは部屋に戻るなり 学院を退学して他国に留学すると告げて王宮に帰っていったらしい あんのヤロウ… 沸々と怒りがこみ上げる 次の日の朝1番にオレは王宮に飛んでいき 慌ててオレを止めようとする使用人を押しのけ アイツの部屋に着くなり ベッドで寝こけているジュリアスをぶん殴った 「…っ…ってぇ…何しやがんだ!」 ベッドの向こうまで落ちたジュリアスが 頬を抑えながら這い上がってくる 「…お前 昨日どこで何してた」 怒りに満ちた低い声でアークライトが問うとギクリとして俯く 「そんで 退学ぅ? 留学だぁ…?   ちっとオレにわかりやすいように説明してくれよ…」 普段では絶対に使わないうようなガラの悪い言葉が飛び出す イテテと頬をさすりながらジュリアスは 騒ぎに何事かと集まった使用人を下がらせた 「そのままの意味だ    来年から行くはずだった留学を早めることにしただけ…「ウソつくなよっ!!!」」 「ウソじゃない」 「ウソだねー」 「ウソじゃないっ!!」 拳を握りしめ床を睨みつけるジュリアス 「あの子を置いて行くのか?どこに?お前が?行けるのか?」 グッ…と言葉に詰まるジュリアスにまた怒りが沸いてくる 「オレのふりして呼び出して何をしようとしてたんだよ」 「………」 「で? それがバレて逃げるってわけか」 「………」 「都合が悪くなるとダンマリか」 フンと顔を背けるジュリアスに怒りが爆発した 「お前のくだらないプライドのせいで   オレがどんなに苦しんでるかわかるか!?  ヘタレで体裁ばかり気にしてあの子を守ろうともしないお前が!   なんで そんな…    お前が…        1番なんだ…よ…」 ジュリアスの胸ぐらを掴み、今にも殴りかからんばかりだった アークライトの言葉の最後の方は消え入るように苦しげだった 「1番…って?」 何を言っているのかわからないという顔をしている 親友で幼馴染で従兄弟であるこのジュリアス(王子)が 憎らしくて羨ましくて  こいつさえいなければと思う気持ちが情けなくて… でも…こいつはオレのかけがえのない友だ 昔から何かと競い合って いつもオレのほうが何でもうまくこなして こいつは王子と言う身分以外オレに勝てるものはなかった ムキになって競い合ううちにお互い高めあった そのオレが初めてこいつに負けた… ―――なのにお前はそれを放り出して逃げるというのか――― ふと机の上にあるサシェに目がいった (ああ…そうだ あの子はオレなんて眼中にないんだ) サシェを拾い上げジュリアスに突きつける 「開けろ」 「……?」 「開けて中身を確認してみろ」

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