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真実【3】
(早くジュリアス様が戻ってこないかな…)
順番に絵画を見ながら移動する
ようやく絵画がセピア色の写真になってきたので
この辺からはここ50年以内のものだと思われる
「こちらが現在の国王さまだ」
テオフィルさんがそう言い指し示した写真はカラーで
真っ赤なビロードのマントを羽織り、豪華な王冠を冠したお姿は威厳があって
真っ黒な髪と瞳がジュリアス様に似ている―――
見惚れていると、ついて来いと急かされて隣の部屋に連れて行かれた
そこは先程よりも少し狭い部屋だが、壁じゅうにはさっきと同じようにたくさんの写真が飾られている
「ここは現国王の家族の写真を飾っている部屋だ」
国王陛下の隣に佇む美しい王妃様は
チョコレートブラウンの髪に黒い瞳の大変美しい方だ
隣に目を移すとそこには王子様方の幼い頃の写真が飾られていて
庭遊びなどをされる可愛らしいお姿が映し出されていた
(ボクなんかとは違って成長の証である写真が沢山あって羨ましいな)
そんなことを思いながら写真を眺め歩いていると
1つの写真の前でフェルは凍りついたように足が動かなくなった
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「アンジュ !」
「ジェイー!!」
走ってくるジェイに抱きつく子供
「待ってたんだよ 来てくれて嬉しい!!」
アンジュ と呼ばれているのは幼い頃のフェル
「遊ぼう?今日は何して遊ぶ?」
久しぶりのジェイの来訪に嬉しくてたまらない
来てくれた時の嬉しさの反面
帰ってしまう時間までのカウントダウンがはじまっていると思うと
悲しさも同時に襲ってくる
それでも嬉しくて嬉しくてジェイに抱きつく腕は離れない
お膝に乗せてもらいジェイがカバンから取り出して見せたのは
筒状になった硬いなにかだった
「これはね 巻貝って言うんだ」
「巻貝?」
「そう こうして耳に当てるとね―――」
それを耳にあててもらうと聞いたこともないような不思議な音がした
「これは遥か南方にある海からやってきた巻貝なんだよ」
「海?」
「海ってね 湖よりももっともっと大きくて
果てが見えないくらい大きいらしいよ
そこには見たこともないような魚もいっぱいいて、
この巻貝もそこにいっぱいあるらしい
大きくなったら一緒に海に行こうね」
ジェイのお話はいつも知らないワクワクでいっぱいで
楽しくて楽しくて時間がすぐに過ぎてしまう
「そこにはアンジュ の好きなお花も
見たことがないようなものが沢山咲いていてね
ボクのおうちの温室にはそこから持ってこられた花たちが沢山あるんだ」
「いつかアンジュ にも見せたいな」
そう言って微笑むジェイの
あの日の笑顔の写真が今フェルの目の前にあった―――
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