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学院祭【1】
昼休み、屋上庭園の一角でフェルと仲間たち8人は
お弁当にしてもらった昼食を食べている
昼休みもフェルへの熱心な求愛をする者たちが、食堂棟を騒がすということで
鍵付きのここに隔離されるようになったのだ
「みんなまで付き合わせてごめんね」
「いいっていいって!ピクニックみたいで楽しいし」
「フェルのせいじゃないしな」
アークライトの Petit frèreをやめた理由を、この7人には話していた
―――さっさとジュリアス様の Petit frèreになれば、
こんなことにはならないのに―――
なんてことは誰も言わずに付き合ってくれる
「今日ってバイトの日だよな?最近はずっとここでやってんだろ?」
「うん! ここで水やりしたりお掃除してる」
長らく手入れしてたバラ庭園だが、追いかけてくる生徒に邪魔されて迷惑をかけていた
見かねてアーク様が手配してくれて、普段は立入禁止の屋上庭園でのバイトに変えてくれた
「学院祭フェルのクラスは天使カフェだって?ずりぃーなピッタリすぎね?」
「だよなーフロランもいるしズリィー!」
別のクラスのアドリアンとパリスが不満げに言う
「アドリアンたちのクラスは人形劇だっけ?」
「そーそー幼児向けにな」
「ロジェとティノのクラスは?」
「うちは定番のホラー屋敷だ」
食べ終えた弁当のケースを片付けながらロジェが答えた
「クリストフェルとフランツのとこは駄菓子屋だっけ?」
「そーそー売るだけラクチン」
「でもさーフェルとフロランの天使って…そのまんまじゃん?
やばくね?襲われないか?」
弁当を食べ終えたティノが、手入れされた芝生に寝転びながら言う
「だいじょうぶ…だと思う 衣装も変えたし」
頬を染め、恥ずかしそうに答えるフェル
「変えたって?フロランが作ってたアレだめなのか?」
「うん 生徒会がダメだって」
「ジュリアス様か? かぁーっ!!けちくせー」
ネヴィルがぼやいた
「どんなだったんだ?俺らにだけ見せてくれよ」
「ダメだって…もうジュリアス様に取り上げられちゃったし」
「うひぃー独占欲丸出しだな 愛されてるぅ」
茶化すように言うパリスにフェルは耳まで真っ赤だ
「あ でも!フロランはあの衣装でやるって張り切ってるから
あの衣装は当日見れると思うよ」
―――そして学院祭当日―――
司教様のような真っ白なローブを着て
真っ白なオーガンジーのヴェールを頭にかぶせ
体全体を覆い隠すような姿で1段高くなった上座に鎮座させられているのは
学院の天使ことフェルだ
上からライトを当てられ頭の上の天使の輪がキラリと光る
背中の羽が神々しさを増している
天使カフェなのに、給仕もせず座っているだけのフェルを客たちは拝んでいる
「ボクも働くって言ってるのに…」
「うるさいな!ブツブツ言うなそこで座ってろ」
1段低い場所から怒鳴るのは、学院の美少女ことフロラン・シャンプルーだ
透け感のある薄ピンクのオーガンジーの衣装をまとい
フワフワの髪にはピンクの小花を無数に飾り
手にはハープを持って、普段は滅多に見せない笑顔を振りまいている
フェルに用意してたのと同じ露出の激しい衣装は客たちを歓喜させ
アークライトの Petit frèreになって以来、陰っていた人気が再燃した
(あいつ…結構良いやつだったんだな)
壇上のフェルとフロランを見るネヴィル
いつもフェルに絡んでは意地悪をするフロランが、正直うっとおしかった
初等部で初めてみた時は、なんで女の子が騎士学院にいるのかと驚いたが
その強烈な毒舌に再度驚いた
だが最近フェルとも仲良くなったようで、今日も生徒会の反対をものともせず
フェルのためにあの衣装を着ているのだ
フェルに集中してしまった狼どもを自分の方に向けて
少しでもフェルにいかないようにと―――
同じく天使の格好をして、給仕しているネヴィルの衣装はと言うと
普段のワンピース型の夜着に天使の輪を乗せただけの
一見すると羊飼いのような姿で、自分ながら似合ってなくて涙が出る
「キャー可愛いー!」
「さすが我が弟、美しいわ~」
「横の子の天使度もすごくない?生きてるの?」
「はぅあ…尊い……」
教室内が黄色い声で満たされた
そこにはフロランと同じ栗色のフワフワの髪にピンクメッシュの
一見して血の繋がりがあるとわかる6人の美しい女たちが、天使二人を見上げていた
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